20250809(土)
放物線の夏2025
▼身長187センチの左バッターがズンッと振り抜いた瞬間、打球は「スタンドまで行ってきまーす」と言わんばかりに美しい放物線を描く。外野手は早々に追いかけるのをあきらめて、阪神応援団のど真ん中にズドンと落ちた。187センチの打者の名は、佐藤輝明。通称サトテルらしい今季30号だった。しかも、左打者には本塁打が出にくい甲子園球場をホームにしているにもかかわらず、両リーグ断トツの30本。そんな記念すべき一打を、僕は京セラドーム1階内野席という「ズンッ」から「行ってきまーす」から「ズドン」までの一部始終を見られる特等席で目撃した。超繁忙期にもかかわらず、東京のテレビではなく大阪の球場というライブで。8月8日金曜日のナイターだった▼なぜか? まずは、昨年のスケジュール帳で1年前の夏を振り返ってみる。愛用しているのはA4サイズの巨大スケジュール帳。無駄な存在感で初見の人からはもれなく注目を浴びる。そんな相棒の昨年8月上旬は「イントロ+全8章+エピローグ+あとがき」と書籍の締め切りが毎週並んでいた。6月末に終わっているはずが、まったく終わらず、大幅に締切を延ばしてもらうことになる。リスケしてもらったおかげで、ちょうど1年前の8月9日に草稿と呼ばれる最初の原稿が完成した▼ところが、その1か月後、秋のキャンプ場で鈍痛に襲われてしまう。翌日も引かぬ痛みは、鈍痛から激痛へと悪化。どうしても外出しなきゃな時は、ビニール傘を松葉杖がわりにするほどの激痛。さすがに通院し「骨折ですかね?」と医師に問うと「典型的な痛風です」と食い気味の診断がくだされる。原因は思い当たることだらけで、夏のすごし方にあった。毎日の飲酒、極度の運動不足、週末ハーゲンダッツ2個、雨が降らないという意味じゃなく、飲まないという意味での水不足……。痛い風になっちゃう、フルコンボだった▼というわけで、2025年の夏。飲酒、スイーツは適量というやつを守ることを心がけつつ、痛い風対策の2強は「水を飲む」と「歩く」だ。「水を飲む」は、この酷暑で飲まないほうが難しいぐらいなので楽勝だ。問題は「歩く」。自宅から事務所までの25分の徒歩通勤を決めて以来、今回がはじめての夏であり、思い知ったのが、昨年まで使用していた自転車が、ある意味でかなりの暑さ対策になっていたということ。5分強の自転車移動は「いい風吹いてるねぇ」なんて口笛気分の時もあった。だがしかし、25分の徒歩移動@真夏はきつい。事務所に着く頃には、朝練終わりの中学生野球部員のように流れる汗がとまらない。幸いにして僕は、中学生野球部員ではないので、小金にモノを言わせて速攻で日傘を購入、抜群の効果を体感する。大都会・学芸大学でも、日傘男子は超少数派で滅多に見かけないけれど「日傘おっさん」は大正解です▼さてさて、「なぜか?」という問いが、サトテルのホームランばりに放物線を描いて忘れ去られるところでした。超繁忙期にもかかわらず、なぜに大阪でサトテル30号に拳を突き上げていたのか? 理由はひとことで言い尽くせる。--サボりたかったんです。お盆前の大切な金曜日だというのに、関係者のみなさま、連絡がつきにくくてすみませんでした。どうかお許しください。試合は阪神の逆転負けでしたが、でも、あの放物線だけは最高でした▼来週のこの連載のようなものは、サボりではなく、予定どおりのお休みです。みなさま、よいお盆休みを(唐澤和也)