20250613(金)
もしも虎将にインタビューできるのなら

▼3連敗中の阪神タイガースだが、個人的にはあまり心配していない。失速の理由が明確だからだ。剛腕・石井大智離脱。神ドラフトと言われる2020年の指名組で、1位の佐藤輝明、2位の伊藤将司、5位村上頌樹、6位中野拓夢など、2023年の日本一メンバーであるバリバリの同期たちと完全にタメを張っている逸材。プロ入り5年目の今年は、24試合に登板して17ホールド3セーブ。防御率は、なんと0.36という無双っぷりで、次期守護神候補の筆頭だった。そんなすごい男が、激烈なピッチャー返しにあい頭に打球を受けて脳震盪になってしまう。阪神ファンは一刻も早い復帰を願うというより、ゆっくりでいいから完全なる回復を祈っているはずだ。でも、そんなすごい男が急に不在になったのだから、藤川監督が「チームの心臓」と評するブルペン陣がバタつくのも無理はない▼そんなことよりも、無理があるのは、僕自身の(もしも、虎将にインタビューできるのなら?)という妄想である。実は、この手の妄想はプロのインタビュアーになった頃からよくしていて(もしも××さんにインタビューできたのなら?)なとど妄想している時間はワクワクしかしないのがふつうだ。だって、妄想だから自由だし、そもそも好きな人へのインタビューを考えるのがふつうだから。ところが、虎将こと藤川球児監督のインタビューを妄想すると、動悸が激しくなり、口が乾いて仕方なくなる▼なぜか?  藤川監督の試合後のコメントが、ジェントルではあるのだけれど、敗戦時などの質疑応答にが、ややもすると曖昧だから。たとえば、5月16日の試合では「踏ん張れなかった理由は?」との記者の問いかけに「まあ、野球ですよね。相手も強いのでこういうギリギリの試合になる」。敗戦後の監督としては一切間違ったことは言っていない。でも、職業病的に気になってしまう。だって、記者が問うた「踏ん張れなかった理由」には、ひとことも言及していないのだから。曖昧だ▼さらに、5月18日には、広島の新井監督との遺恨騒動があった。発端は4月20日にさかのぼる。自軍の選手が広島の投手から頭部に死球を受ける。すると、当てられた選手がとめに入るほど(つまり、大事になんて至っていない)、藤川監督が激昂。なにか事情があったかもしれないけれど、「来いや!」といったジェスチャーで闘志をあらわにしていた。のちに「年長者として腹に据えかねるものがあった」と新井監督が正直な言葉を口にしたのに対して、藤川監督が記者から問われて返した言葉はこうだ。「ここでお話することではないし……会見としてはできたら、その質問は控えていただけるとありがたいですね」。この時も、ものすごーく、ジェントルな態度での受け答えだったけれど、絶対に答えたくないのだなと多くの視聴者が悟った。これもよくよく考えると、記者だって会見だからこそ聞いたはずで、特段おかしな問いではない▼誤解されぬようことわっておくが、僕は藤川監督が大好きだ。炎のストッパーだった選手時代も、監督になったいまも。とくに、監督としては阪神タイガースという人気球団のトップとして、結果を出しながら試行錯誤を続けているのがすごい。前任の岡田監督が38年ぶりに日本一を奪還するなどの快挙を達成しているのが、後任としては絶対にやりにくいはずで、無難なタクトを振ってもおかしくない。なのに、藤川監督はちゃんと独自色を出して攻めている。藤川監督がうみだした、歴代ドラ1トリオの3番森下、4番佐藤、5番大山のクリーンナップは、はまりにはまりまくってプロの解説者からもファンも絶賛されている▼けれど、曖昧インタビューだけはいかがなものか。いや、心の奥底ではわかっているつもりだ。解説者時代にあれだけ的確に言語化できる人が、あえて曖昧な表現に終始するということは、戦術的なことやチーム状況を含めて、あえて語りたくないのだろうなぁということを。それでもなお、同業者としては記者の側に立ってしまうので、敗戦後のコメントを見聞きしないようにしている。そんなわけで、億が一にも虎将インタビューのオファーがあったのなら「そういう思いがないわけじゃないんですけど、うまく言えないですね、いまの段階では」と曖昧に答えようと思っている(唐澤和也)