20250322(土)
バナナが僕を追いかけてくる

▼バナナが僕を追いかけてくる。悪夢の話とかではない。傑作サッカー漫画『アオアシ』の主人公は視野が尋常じゃなく広くてチームメイトが彼の才能を学ぼうとするのだが、その感じ。主人公はとくに意識せずとも駅から練習場までにある赤い看板を覚えているが、チームメイトは意識して覚えろと監督に指示される。僕の心の内側にバナナ監督がいたのだろうか。なぜだか今週はバナナが目や耳に飛び込んきた▼最初は耳からだった。痛い風の反省から、スーパーのお弁当があまりにも続く生活はいかがなものかと、近所のファミレスに行った夕方5時半ぐらいのこと。早めの夕食に同店いち推しのハンバーグにサラダを追加で頼んじゃったりして万全を期していたら、バナナだ。「晩ごはんはいらないから、バナナを買っといて」とクールに告げる声の主は隣りの席のおばさんだった。ご主人なのか、家族の誰かに電話で頼んでいるご様子。娘さんと同席していたのだけれど、テーブルの上にはドリンクだけ。夕方の5時半だったから、おそらく晩ごはんはこれからだろう。となると、なぜバナナを頼んでいたのかが気になった。僕にとってのバナナは朝食だからだ。隣りのおばさんはダイエット中で、晩ごはんはバナナ1本だけなのかな。切ないな。いや、本当のところはわからないが、晩ごはんとバナナの組み合わせが不思議だった▼そうなのだ。バナナが僕を追いかけてくるきっかけとなったのは痛い風だ。担当医が処方してくれた薬は朝食後の1錠。それ以前の習慣で朝食をちゃんと食べていたのなんて実家暮らしの高校生までさかのぼらないと記憶にない。大学生となり上京してひとり暮らしするようになってからは、朝に寝て昼すぎに起きるという完全夜型生活で、朝食という概念自体が存在しなかった。朝型に戻った42歳以降も朝食はいらない派であったが、痛い風は本当に痛かったからシノゴの言ってもいられない。さりとて毎日のことなので、サクッと食べられるバナナを冷蔵庫に常備するようになったというわけだ▼ところが、これが意外にもおいしい。ハーゲンダッツほか洋菓子完全禁止令発令中だから身体が甘さに飢えていたのもあったのだろう。加えて、バナナってば品種がめちゃめちゃ豊富。各コンビニによって扱っている品種が違うし、スーパーにいたっては5、6種類がふつうに並んでいる。というわけで、昨秋からこっち、ありとあらゆるバナナを食べのめす日々が始まったのである▼そして今週。バナナが僕を追いかけてきた。代々木上原で打ち合わせの帰り道、路面販売の八百屋さんでエクアドルのバナナが目に飛び込んできたり(4本450円と高額だったが歴代ナンバー1ってぐらい美味!)、東京ではいろんな街でよく見かけるなぁなカルディには「サクサク」と「カリカリ」2タイプのバナナチップスが販売されていることに気づいたり、最近お気に入りの学芸大学のカフェ&本屋さんには、なぜかシュガーポットと呼ばれる黒い点が浮かんでいるバナナがカウンターに置かれていたり。聞けば、手作りのバナナブレッド用のもので、わざと熟成させているらしい▼さらに、別の意味で目に飛び込んできたのは「バナナと人間の遺伝子は50%一緒」という記事。直接的にバナナが追いかけてきたわけじゃないが、間接的にバナナで、かつ、興味深い。その記事の主旨は「ある意味人間とバナナは大差ないんだから、細かいことにくよくよしてもしょうがない。だって、バナナは悩まないでしょう」という〝天才バカボン的〟素晴らしさだったが、別途調べてみると、たしかに「バナナと人間の遺伝子は50%一緒」なのだという▼ここまでバナナに追いかけられる日々を重ねてくると、自分でチョイスする情報の精度も高くなり、宮崎県におもしろそうなバナナ農家を発見してしまう。日本産のそのバナナは皮ごと食べれちゃうらしい。そもそもなぜ、バナナ農家を目指したのかなどなど、これはもう、実際に訪ねていろいろお話を聞いてみるしかあるまい。と、ここではたと気づく。そうか。単純な話であった。バナナが僕を追いかけてくるんじゃない。僕がバナナを追いかけていたのであった(唐澤和也)