20250207(金)
月曜日の望郷太郎
▼「最近、一番うれしかったことはなんですか?」。著名人のインタビューをかなりやっていた頃、そんな質問をよくしたものだった。いまさらだけど、雑な質問だ。「一番」とつけることで「最近、うれしかったことはなんですか?」という質問よりは精度をあげた気になっていたけど、いやいやぜんぜん。あの頃の著名人のみなさま、雑な質問をしてしまって、すみませんでした。反省の代わりに「最近、一番うれしかったことはなんですか?」と自問自答してみることにします▼やっぱり、愚問だ。ぱっと答えなんて出やしない。それでも反省なのであきらめずに思い出してみると、今週は「うれしいこと」が意外とあったことに驚かされた。年が明けてからなんだかんだと貧乏暇なし状態だったのだけれど、この月曜日の16時に「あれ? どうしてもやんなきゃなことがない!」からの「よし、帰ろう!」にテンションがあがりまくる。つまり、うれしかった。月曜日という週のはじまりが実働5時間ほどという、フリーランスの醍醐味。とはいえ、痛い風対策のアルコール禁止令は相変わらずなので、暇だから飲みに行くという昔のような選択肢はない。とはいえのとはいえ、気分だけでもとノンアルコールビール「龍馬1985」(いろいろ試してこれが一番おいしい)を購入し、さらには、旨味たっぷりと謳われているラー油とキャベツ1/8を買って家路を急いだ。冷凍庫に餃子が残っていたのを思いだして、さりとて、ラー油はきらしていたからの購入で、同じく余っていた鍋の素的なやつ(1人前)にキャベツと豆腐をぶっ込み、いまや我が家の定番と化したパスタの「ペペロンチーノ」を作っていただいた。早めの夕食、すべてうまし。かえす刀で、傑作コミックスの『望郷太郎』最新12巻をまず読み、記憶があやふやな8巻あたりから12巻までを再読するという贅沢かつ怠惰な時間。想定外の休日(半日だけど)が突然に訪れたのだった。まるで、ゲリラ豪雨のように▼と、ここまで書くと、月曜日が最近一番うれしかったことでもういいじゃないかという気がしてきたけれど、実は火曜日が一番だった。鳥取大学の「インタビュー概論」、その3回目にして最後の授業でのこと。インタビューの座学、生徒が実際にインタビューをして原稿を書いてみる。その原稿に赤字を入れて僕が添削をし、さらに生徒が追加取材をして原稿をブラッシュアップ。そんなステップを経た最終回的講義は、3人の生徒の原稿がそれはもう格段の進歩を遂げていて、それだけで甲斐があったというか、うれしかった。なのにである。最終回はリモートでの授業だったのだけれど、その終わり際にひとりの生徒がパソコンの画面の中から叫んだ。「楽しかったです!!!」。あれはたしかに〝言った〟ではなくて〝叫び〟であった。しかも、学びになったとか、ためになったとかではなくて「楽しかった」だなんて。元々だらしない顔がそのシャウトのおかげでゆるゆるに緩んだ▼阪神の前任監督である岡田さんが、就任1年目のキャンプ時にこんなことを語ったことがあった。ジェネレーションギャップについて自分でも意外だったとしつつ「いまの若い子も、野球の技術の話ならものすごく聞いてくれるんやなと思った」と口にしたのだった。笑顔だった。たぶん、岡田監督はうれしかったのだろうと思う。いまならわかります、岡田先輩のあの時の気持ちが。精神論や根性論は厳しいけれど、技術論ならば世代を超えるし、その通じ合える感覚は、同世代のそれとはまた違ううれしさがある▼と、ここまで書いて思ったのは、(あれ? 「最近、一番うれしかったことはなんですか?」って質問はそんなに悪いもんでもなかったのかな?)であった。だって、自問自答しなければ、かなりの確率でこれらの出来事は記憶からスルーされていたから。「インタビュー概論」の授業のために、一般的なインタビューの基礎みたいなものも復習したのだけれど、質問には「オープンクエスチョン」(自由に回答できる問い)と「クローズドクエスチョン」(はいかいいえなど限定的な解答となる問い)があるのだそう。先週のコラムの「雑談」にも通じるのだけれど、もしかしたら最近の僕は、クローズドな問いが多かったのかもしれない。そして、こんなことを思う。文頭でも文末でも、結局は反省せざるをえないインタビューの難しさが、一周まわってやっぱりうれしい(唐澤和也)