20241224(金)
無知死と想年会
▼無知死という言葉を発明したのは、爆笑問題の太田光さんだ。1999年発売の太田さんの自伝『カラス』の巻末には、「宮本浩次」「糸井重里」「中沢新一」という才人たちとの対談が掲載されていて、糸井さんとの対談では、こんな言葉を口にしている。「無知が原因で死んじゃうヤツっていると思うんですよね。たとえば、ある病気にかかって、余生を田舎で過ごそうとするヒトがいたとする。でも、実はよく調べてみるとアメリカのどこそこの病院でなら治療が可能だとか、調べることによって選択肢が広がっていくような気がするんです」。さて、年末。死にはしなかったが無知はダメだなと痛感させられた出来事があった▼「月刊ロゴス」でのこと。おでんの特集は冬にいいかもとの思いつきから、カメラマンの関くんとああだこうだと打ち合わせをしているうちに「名古屋の味噌おでん」「静岡おでん」「関東のおでん」の3つをアウトドアで作って、それぞれの名所的な場所で完成品を撮影するのはおもしろいかもとなる。たとえば、静岡おでんごしに富士山がそびえているといったイメージ。そんな〝おでん絵ハガキ〟的な方向性でリサーチを重ねるうちに、名古屋の味噌おでんの心臓である「八丁味噌」が、名古屋ではなく愛知県の岡崎で作られていることを知る。オーマイ無知だった。岡崎のおとなりの豊川で生まれ育ったというのに、僕はその事実を一切知らなかったという、マイナス方向での衝撃……▼となると、興味は岡崎にフォーカスされ、八丁味噌蔵見学などを企画に加えることになる。「岡崎」というワードでアンテナが立っていたからだろう。関くんが岡崎の乙川河川敷で開催されるキャンプイベントを発見する。これはもう、3か所でのおでん味比べではなく、岡崎だけにフォーカスしようとなったのは自然の流れだった▼そちらの詳細は、来年1月15日更新の「月刊ロゴス」に譲るとして、1年のしめくくりをキャンプで終えられたのはよかった。なんて書くと、毎年、冬キャンプをしている豪の者のようだが、実は、アウトドア歴13年目ではじめての経験だった。だから、それはもうわかりやすくビビって、各種防寒着をたくさん用意していた。ところが、まったくだった。最低温度は4度と、寒いは寒かったけれど、たき火にあたっていれば持参したアウターを着ずとも余裕ですごせたし、用意した寝袋もマイナス温度帯対応のものだったので快適だった。なにより、おっさんふたりの年末キャンプは、なんだか忘年会のようで趣があった▼そういえば、忘年会よりも「想年会」のほうがよいと力説してくれたのは、ライセンスの藤原くんだ。たしかに1年の終わりは、忘れるよりも想うほうがいいような気がする。そんなわけで、「想」してみると、これほどまでにエンタメに救われた年もなかったことに気付かされた▼「書」の東の筆頭『海と生きる』は、一人でも多くの読者に届くものをと願いながら書いていたからか、逆の立場である受け手としては、観る人や読む人の喜怒哀楽を揺さぶろうと試行錯誤しているであろうエンタメ作品に、心底励まされた。「観」でいうのなら、ドラマ『虎に翼』『不適切にもほどがある!』『アンメットーある脳外科医の日記ー』『アストリッドとラファエル 文書係の事件録(第4シーズン)』『ライオンの隠れ家』『殺し屋たちの店』『SHOGUN 将軍』『センス8』。映画は『哀れなるものたち』『アメリカン・フィクション』『憐れみの3章』『ルックバック』、IMX再上映での『インターステラー』。「読」ならば、『イッツ・ダ・ボム』(井上先斗)、『僕の文章読本』(荒川洋治)『勇気論』(内田樹)。言葉にすると幼稚にもほどがあるが(俺もがんばろう!)と思わせてくれたエンタメたちだ▼こうやって、ひとり「想年会」をひらいてみると、2024年は「書」だけでなく「観」であり「読」でもあった。さてさて、2025。とりあえず、目標漢字は「雲」に決めたのだけれど、みなさまは、どうですか? 2月最終週と1月第1週はお休みです。よいお年を(唐澤和也)