20241201(日)
カニ味噌に気をつけろ!
▼男には負けるとわかっていても、挑まなければならない時がある。なんて、書き出しはいかにも前時代的&昭和な言いまわしで多様性のいまにはそぐわないだろうが、多様性のうちのひとつでもあるはずの昭和な価値観を持つ古い男である僕は、そう思わずにはいられなかったのだから仕方がない。今週火曜日、鳥取旅でのこと。晩ごはんに、この地の名物「親カニ」が登場したのである▼「カニ味噌に気をつけろ!」は、痛風仲間たちの合言葉。プリン体含有量が多いとされているからだ。プチ情報を添えるのなら、カニの身はプリン体含有用がそこまで高くないので、問題は味噌である。さらに、その夜の食卓には、歯鰹(ハガツオ)も登場。キツネガツオ、スジガツオとも呼ばれるカツオの仲間で、ということは、プリン体含有量が高い食材として、痛風仲間には有名だ。脳内で仲間の言葉がこだまする。「カツオにはもっと気をつけろ!」。プリン体の分類は「極めて多い」「多い」「少ない」「極めて少ない」の4段階にされるが、カツオは上から2番目の「多い」。故の「気をつけろ!」。わかってる。脳内の僕が答える。でも、無理だった。だって、親カニも歯鰹も人生ではじめて目にする食材、かつ、地のもの、さらに、めちゃめちゃにおいしそうだったのだから▼そして、週末のいま。無風である。痛い風は吹いてこない。9月中旬の発症からこっち、いかに多くのおっさんたちが痛風や高尿酸値に悩まされているかを知った。鳥取県で食卓を囲んだ人たちに痛風仲間はいなかったが、彼らの知り合いにはお酒や食事を我慢せず、注射をうってしのいでいる人がいるらしい。痛い風がふく。注射を打つ(その注射は痛風よりも激痛らしい)。痛みが嘘のようにひく。で、その夜から呑む。しばらくは大丈夫だけど、やがて痛い風が吹く。以下、同。うーむ。人それぞれだけど、対処療法にもほどがあると感じてしまう僕の選択は、注射ではなく禁酒だ▼鳥取の夜にしても、親カニはいただいたし歯鰹もおいしかったけれど、酒は一滴も飲まないと決めていた。思えば、痛い風が強風で吹いて以来、酒席でも禁酒生活が続いているが、同席する人たちがこちらをまったく気にせずに呑んでくれるのがありがたい。ある後輩にいたっては、3時間ほどの居酒屋終わりで「唐澤さん、もう一軒いきましょう!」とバーに連れていかれたのだった。お酒の店=バーで生粋の烏龍茶を飲むという人生初体験。しかも3杯も。おもしろい夜だった▼ところで、鳥取旅の目的は、親カニではなくてインタビューであった。2年ほど前に雑誌「PAPER LOGOS」の取材で鳥取大学の教授と知り合う。痛風前夜ではあったので、みんなで痛飲した夜に「小学生にインタビュー教室とかやってみたいんですよね!」と熱く語り始めちゃった僕。ところが「大学生じゃダメですか?」と真面目に返してきた教授。ふつうは、酒席のざれごととして終わる類の話なのだが、僕も教授もいたって真剣だった。素面でも打ち合わせを重ね、昨年から鳥取大学で「インタビュー概論」を担当させてもらうこととなり、問う・聴く=インタビューだけでなく、書くまでをゴールとして、11月〜2月の3回の講義となったのだった▼2年目の11月、初回である今回。インタビューの形式(Q&Aスタイルとか、一人称とか、地の文章ありだとか)について説明していて、実際の僕の原稿を学生に見てもらっていると、ある学生からこんな質問があった。「地の文章はどういう狙いで書いているんですか?」。インタビュイー(取材させてもらった人)の言葉を「 」で書いて、その「 」と「 」をつなぐような文章を僕らは地の文章というのだけれど、その質問をされて、はっとさせられる。(狙い? 狙いってなんなんだ?)。授業では「感覚……かなぁ」みたいなことしか言えなかったけど、東京に帰って考えてみるに、自分が書いた文章を何度も何度も読んで〝読者として〟の違和感、あるいは(うまく書けたらだけど)読んでいて「!」とフラグが立つような文章を狙っているのかもしれない。つまり、大切なのは、書くだけでなく読むということ。なーんてことを次の授業で話してみたい。そして、来年の11月の夜には、「親カニ」に日本酒を是が非でもあわせてみたい(唐澤和也)