20241109(土)
はじめての予約
▼好きなアーティストのライブチケットを予約したり、街の本屋やコンビニでは棚に並びそうもないマニアックな新刊コミックスを予約したり。予約といえば、エンタメまわりのあれやこれやが常だったのだけれど、この冬、人生初の予約経験をした。チーズである▼詳しく書くのなら、パルミジャーノチーズのブロック。イタリアンチーズの王様とも呼ばれている逸品をブロックで、つまり塊で900グラム。なぜに、パルミジャーノチーズの塊を予約することになったかといえば、『一つ星イタリアンの ミニマル最高パスタ』という1冊の本が影響している。さらになぜ、この本が影響したのかといえば、そもそもこの本に辿り着くまでの前段がある。つまり、今週はちょっぴり長い話です▼このコラムでは〝某プロジェクト〟としていたライター仕事の正式タイトルが決まった。『海と生きる 「気仙沼つばき会」と『気仙沼漁師カレンダー』の10年』(集英社刊)である。同書については、追ってまた詳しく書きたいと思っているが、ざっくりいうと、本人たちいわく「田舎のおばちゃん」にも関わらず、日本を代表する写真家とともに『気仙沼漁師カレンダー』という傑作を10年間も作り続けたすごい人たちがいて、その軌跡を追ったノンフィクションだ。発起人である気仙沼つばき会の女性たちや被写体である漁師だけでなく、日本を代表する10人の写真家たちにもインタビューを重ねた。そのうちのひとりである竹沢うるまさんのインタビュー前夜に、プロット(質問案)を練るために氏の近況などをチェックしていると、ある一冊のレシピ本を推しているのが気になった。それが『一つ星イタリアンの ミニマル最高パスタ』であった。うるまさん撮影による『気仙沼漁師カレンダー』は2018年版で、打ち上げを氏のご自宅でしてもらえることになり、スパイスの調合から作ってくれたカレーがめちゃめちゃうまくて、その人が推しているレシピ本なら間違いないし、かつ、生来のパスタ好きが故に購入していたのだった▼だがしかし、通常の仕事に加えて、結果的に全272ページとなる『海と生きる』の原稿書きに没頭する日々のなかで、『一つ星イタリアンの ミニマル最高パスタ』は本棚の彼方に追いやられたのであった。であったのだが、9月の痛風事変により「プリン体」問題が浮上し、同書が一躍脚光を浴びることになる。なぜか? 焼き鳥盛り合わせ1人前のプリン体含有量が「337mg」に対してペペロンチーノはたったの「39mg」。1日にどれぐらいのプリン体がOKかなどの詳細は各自調べていただくとして、「ペペロン、少なっ!」とだけ感じてもらえたら幸いだ。ただし、ペペロンチーノ(同書では「スパゲッティ・アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ」。なので、以下は「スパゲッティ・アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ」)はパルミジャーノチーズを使わない。つまり、予約の話には、まだまだたどり着けない▼「スパゲッティ・アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ」で使うのは、ゆでる水、塩、にんにく、オリーブオイル、唐辛子オイル、イタリアンパセリ。〝ミニマル〟と謳われる本書でも一番最初に掲載されるメニューだけあって、ミニマル・オブ・ミニマルで、超シンプルだ。で、そのシンプルさがもう絶品だった。ポイントは塩。著者である小倉知巳シェフの流儀は「パスタを茹でる水の量の1.5%」なので、3リットルの水から茹でるのならば45gもの塩を使う。どうでしょう? パスタを茹でるのにそこまでの塩を使いますか? 個人的にはパラパラパラぐらいしか塩を振ったことがなかったから、内心で(正気ですか!)と思いつつも試してみると、これがもう絶品だったというわけ。一度ならずも二度までも、自分で作ったものを「絶品」とするのはいかがなものかだが、料理上手なわけでもなく、それどころか不器用な僕でもおいしく作れたのは同書が素晴らしいから。以来、小倉知巳シェフをパスタの神と崇めるに至る▼さて、いよいよ本題である。『一つ星イタリアンの ミニマル最高パスタ』には、パルミジャーノチーズがよく登場する。ブロックとパウダーと表記をわけて記載されたりもしている。いわゆる粉チーズしか使ったことのない僕は、さっそく、学芸大学のパルミジャーノチーズのブロックが置いてあるであろう小洒落た店を訪ね、180gのものを購入。自宅で作ってみた「いろいろキノコのスパゲッティー」がめちゃめちゃ絶品で、翌日にその小洒落たお店がたまたま受け付けていたパルミジャーノチーズのブロック、900gを返す刀的勢いで予約してしまったというわけである▼ふぅ、ようやく「はじめての予約」話に辿り着いた。本稿を思いついた時には、チーズの話からスッと次のことをお願いしようと思っていたのだが、いやはや、まわり道がすぎた。みなさま、『海を生きる』(集英社刊)は11月26日に発売予定ですので、ぜひぜひ予約のほど、よろしくお願いします(唐澤和也)