20241016(水)
風と涙

▼痛風3部作となる今週のタイトルは『風と涙』。タイトルの付け方には、好みがあるようで、かの宮崎駿先輩は「の」でつなぐタイトルが多い。『ルパン3世 カリオストロの城』『天空の城ラピュタ』『となりりのトトロ』『魔女の宅急便』などなど。『風の谷のナウシカ』と『丘の上のポニョ』なんて「の」のコンボだ。ひるがえって僕の好みは「と」。昨年のPAPER LOGOSの表紙巻頭特集が『青春とアウトドア』だったように、ちょっぴり意外性のある組み合わせが好きだ。影響を受けたのは、ユニコーン時代の奥田民生先生で、通算7枚目のアルバムタイトル『ヒゲとボイン』に衝撃を受けて、というか、爆笑した。のちにプロのライターになってからは(どうすりゃ、あんなタイトルが思いつくんだろう?)と調べてみたら、小島功という漫画家の作品からの引用だった。元祖である漫画のほうは読んだことがないけれど、となると、僕のタイトルの本当の師匠は、小島功さんということになる▼そんなわけで、漫画家・小島功さんに影響を受けた『風と涙』である。痛風になって食生活をガラリと変えたわけだが、その際たる例が禁酒だった。ところが、禁煙に比べればどうということもなかった。いま思うと、緊急事態宣言発出直前のストレスしかないあの時期によくぞタバコをやめられたものだ。本当に辛かった。それに比べればさほど酒量が多いわけでもないアルコールはわりと簡単に我慢ができたが、でも、どうにもこうにも欲したのが「ハーゲンダッツ」を筆頭とする甘いものたちだった。甘いものにも中毒性があるのかと気になって調べてみると「砂糖依存症」なるものがやっぱりあって、「疲れた時やストレスを感じた時に甘いもの」という習慣を作ってしまうと脳がその快楽から抜け出せなくなる、すなわち中毒になるそうだ。怖い。怖いが、なにせ甘いものなので、タバコやアルコールよりは印象がやわらかで、別名「マイルドドラッグ」と呼ばれていた。1週間我慢すれば抜け出せるとの説もあり、個人的にはたしかにその通りの1週間がピークで、徐々に甘いもの熱はおさまってきている▼ただ、タバコと一緒で危険なトリガーはやっぱりあって、先ほども馴染みのスーパーに寄ったら「本日の特売品はハーゲンダッツです。ご奉仕価格199円!」のアナウンスに心が揺れまくった。ちなみに、メーカー希望小売価格325円が、なんと、199円。お安い。1個ちょっとで2個買えちゃう。いや、そういうことじゃない。とりあえず、10月22日の検査まではとなんとかギリギリで我慢したのだった▼正直に告白すると、我慢の限界で心が折れてしまった瞬間があった。映画『スター・ウォーズ』でいうと、ダークサイドに堕ちた瞬間。それは10月6日の日曜日、事務所の近所のお稲荷さんで秋祭りがあった時のこと。笛や太鼓の祭りの音楽。きゃっきゃっと騒ぐ子供たちの楽しげな声。漂ってくるのは、たこ焼きのソースの匂い。ふらふらと境内に引きよさられると、ソースの匂いだけでなく、じゅうじゅうと美味しそうに音までしやがります。実は、ダメダメ食生活期間中、「ハーゲンダッツ」と並んで乱食したのがたこ焼きでした。しかも、プリン体が多く含まれるカツオ節の削り粉をかけて食すというロードトゥ痛風な、ダメダメな食生活。逆に言えば、それほどまでにたこ焼きが好物だったのですが、ふと隣りの屋台をみるとキンキンに冷えていそうな各種缶ビールが取り揃えられています。(もう無理っす)。完全に心が折れて、食生活逆ぶり期間以来守ってきた、たこ焼きとビールを、この際、飲んでしまおう、そして、食べてしまおうと、覚悟を決めたのでした▼「この際」ってどの際なのか問題は一旦置いておくとして、ビール&たこ焼きの前にお参りだけはしようと思った意外と信心深い僕。なにせ、出自が全国三大稲荷のひとつとされる豊川稲荷のある愛知県豊川市ですから。お賽銭を入れて、2礼2拍手1礼を済ませて、いざ、たこ焼きだと思ったその時、その神社で時折引いているおみくじが気になりました。この際、おみくじも引いてみよう。再度、お賽銭を入れて、おみくじを開いてみると驚愕すべき文章がおどっているではありませんか。いわく「喉元すぎれば熱さ忘れる。自省せよ!」。おみくじに怒られるという奇跡。(ごめんなさい!)と大自省して、もちろん、たこ焼きもビールも買わず、食べず、飲まず、事務所に戻って仕事に励んだのでした▼それにしてもなぜ、人はやましいことがあると文章まで丁寧になるのか。秋祭りのことを思い出すまで、ですます調じゃなかったのに。そして、『風と涙』の話はどこへいったのか? こんなはずじゃなかったのですと再びのですます調に戻って、かつ、3部作じゃないじゃんと自分でも驚きつつ、来週に続きます(唐澤和也)