20240630(日)
ネパールの学校と日本の給食②(再録)
▼僕ができることと言えば、人の話を聞き、見たものをメモすることだった。日本式カレー作りのめどが立った山田くんが、今回のネパール行きにいたるまでの逡巡を教えてくれた。いつも笑っていてポジティブな印象の彼が、「逡巡」すなわち迷ったというのが気になる▼「東北の震災があった時に、小池、編集者、カメラマンの何人かで東北に行くことになったんです。地震が起きた直後には、料理家としてなにかできることをしたいと考えてもいて。でも、炊き出しをさせてもらったとして、300人分作って、301人目の方が来てくれた時、俺はどうすればいいんだろう。ごめんなさいってどんな顔して謝ればいいんだろって、悩みに悩んで、炊き出しに行くことはやめにして、料理家という肩書きは忘れて、とにかく行ってみたという経緯がありました。今回のネパール行を小池に誘われた時は、現地でなにをするかは迷いませんでした。YouMe School(夢スクール)ってライくんが日本で感じた日本式教育のよさを取り入れているから掃除も生徒みんながしていて、〝みんなで〟というのがポイントだったそうなんですね。ネパールではカーストが残っているから、身分が上の子は掃除なんてしない。だからこそ、ライくんはみんなで掃除をすることにこだわったんですけど、でも、YouMe Schoolにはみんなで食べる給食はない。だったら、給食を作ってみたいと、すっと思いつきました。それでも、僕らが給食を作っても、それって1日限定のこと。東北で迷ってしまった、炊き出しの301人目への思いのように『明日は給食がないのかぁ』と子供たちががっかりするかもと想像はしてしまったけど、この学校の名は夢スクール。だったら、たとえ1日であっても、子供たちが『給食っておいしい』『みんなで同じものを食べるのって楽しい』と感じてもらえて、誰かひとりでも『毎日給食を食べたい』とか『毎日給食を食べさせたい』という夢になってくれたのならって。でも、まさにいまはドキドキですけどね。いまさらだけど、日本ふうのカレーが、みんなの口に合うのかなぁって」▼果たして、山田くんの不安は杞憂に変わる。生徒たちはもれなくおかわり。日本米と現地米の味比べも楽しんでいた。というか、子供たちの食欲がすさまく、大盛りのごはんで3杯のおかわりをするツワモノがいたほど。ちなみに、メモ魔は「小さい子から配ったのに、みんなにカレーが行き渡るまで箸を付けず。スプーンをぐるぐるして待っている姿、健気」との言葉を残している▼そして、おごり魔の関くんの写真撮影。これがまぁ、大好評だった。ネパールでは、水洗トイレの普及率よりもスマートフォンのそれのほうが高いらしいので、写真そのものには慣れているはず。でも、わざわざ現地に持ち込んだ簡易式プリンターが効いた。宝物なのだ、子供たちにとって、人生初のアナログのポートレイト写真というものが。見せてとお願いしても、「嫌!」というふうに大切にポケットにしまいこむ子供たちの姿は、その写真がいかに大切なものであるかを物語っていた。どうやら、このプリントアウト写真は村中の評判になったらしく、後日、関くんが〝あの〟カメラマンだと知ると、「俺も撮ってくれ。あのピューってプリントアウトされる写真を!」と村人からねだられていた。(唐澤和也)(初出「and NEPAL」)