20240524(金)
Excuse me,アイアムロンリー!①(再録)
▼今生の別れのようなガッカリさ加減で、その人は言う。「もうすっかり、ふつうの東京の人の足裏になっちゃいましたねぇ」。2016年の年が明けて、10日が過ぎようとした頃のことだった。足裏を揉まれながら仰向け状態の僕は、新春早々ガッカリされちゃったよ、しかもいちおう客なのに、と顔にかけられたタオルの下で奥歯が笑うのを堪えていた。でも、そりゃそうなのかもなぁとも同時に思う。だって、「その人」とは、僕が東京でお世話になっている敏腕眼鏡男子マッサージ師で、約1ヶ月前には、やけに興奮してこんなことを言っていたのだから。「あれ? あれれ? あれあれあれ? なんでだろ? 足裏がめちゃくちゃ柔らかい!」。足裏を揉まれながら仰向け状態のその時の僕も、そりゃそうでしょう、とほくそ笑んでいた▼なぜに1ヶ月前には足裏がめちゃくちゃに柔らかく、メイドイン東京な足裏っぽくなかったのか。それは、2015年の12月11日からの3日間、僕が台湾を旅していて、ある人から「夏威夷養生行館」というマッサージ店をすすめられた結果、それはもう衝撃的な気持ちよさで、連日連夜通いまくっていたからだった。とはいえ、気持ちよさは内的な問題なので、外的にみたらどうなんだろうと台湾での足裏三昧を内緒にして日本の敏腕に揉んでもらった結果が「足裏がめちゃくちゃ柔らかい!」であり、その後の今生の別ればりのガッカリだったというわけである▼そもそもなぜ、台湾だったのか? きっかけは、大同電鍋と呼ばれる台湾独自の調理器具、そのレシピ本的パンフレットを「and recipe」が作ったからなのだが、すべての始まりは青木由香さんだった。世界各国を旅したのち、2003年に台湾を訪れてからこの国と人の魅力にどっぷりとはまり『奇怪ねー台湾』というベストセラーを出しちゃったり、テレビの世界でも外国人として初めて最優秀総合司会者部門に選ばれたり、台湾で一番有名な日本人である青木さん。日本に向けて台湾情報を発信したり、最新かつセンスあふれる現地コーディネイトもしている人でもあり、件の「夏威夷養生行館」ももちろん由香さんのおすすめだった。そんな彼女が、大同電鍋の魅力を教えてくれたことが、このパンフレットが生まれるきっかけで、でもって、誰かが酒の席で言った「台湾で打ち上げしたいね〜」というたわごとを、参加スタッフ全員が真に受けてしまう。季節は冬。というか、師走。ふつうのカメラマンやらライターやらは年末進行という超繁忙期なはずなのに、なぜかみんなが「行く!」と即答していた。あれはなんだったのか。みんな、暇人だったのか? それとも台湾の魅力か? 単純に酔っぱらっていたのか? あるいは、それら全部だったのか?▼かくして、台湾旅行は弾丸ツアーとなる。行きの飛行機の出発が早朝5時、帰路が深夜0時 40分(東京着早朝4時40分!)。なにかと早いし遅い。でも、このスケジュールだと、台湾の滞在時間をフル状態で長時間設定できることがうれしい。てなわけで、12月11日金曜日の朝8時40分桃園空港着、なのである。見上げると、かんばしくないとの予報通りのグレーな空模様。けれど、粗品のような青空がちらりとのぞいているだけでも気分がいい。というか、心の有り様が明らかに舞い上がっている。コンビニのことを「便利商店」と言うのか!……ホテルの目の前にファミリーマートがあるぞ!……噂通りに多いじゃないか、原付ラバーズが!……などとテンションがあがるたび、無駄に資料写真用のシャッターを切ってしまう▼さらに、テンションのあがったのが、好吃(ハオチー/おいしいの意)関連、つまりは食事だった。もはや、青木由香と書いて好吃(ハオチー)と読むのではないかと思う。しかも、味のほうはもちろんの好吃(ハオチー)だったけれど、青木さんによるそのお店の背景解説までもが好吃(ハオチー)だった。 あるお店に入る。青木さんから、「このお店はね、サラリーマンが毎日来ても飽きない店にしたいって、オーナーが無駄な内装費をかけないでオープンしたの。だからキレイではない。でも、おいしい」との物語を聞く。その後、笑顔の店員さんが運んできてくれた「蒼蠅頭(四川風肉そぼろ)」は絶品で、6人で囲んだ円卓がぐるんぐるんとまわりまくった。ぐるぐる好吃(ハオチー)だ。以後の3日間、地元の人がふだん使いをするお店から、なかなか予約が取れない人気店まで、青木さんにはお世話になりっぱなしだった(唐澤和也)初出:「and台湾」