20240412(金)
スリースワード

▼春の珍事なのでしょうか。2024年春、インタビューをさせてもらえる回数が増えてきている。増えるとどうなるか。反省も増える。増えた分、別の現場で取り戻せる。プロ野球選手のキャッチャーは、とにかくマスクをかぶる回数(試合に出る回数)を増やすことがスキルアップの絶対条件と言われているけれど、それに近い感じ。おまけに8年間いっしょだったスタッフ・山岡の卒業に伴い、テープ起こしも自分でやることが増えている。増えるとどうなるか。反省も増える。増えた分……以下同です。つまり、好循環。2024年春、打席に立つチャンスをもらえることがありがたい▼ところで、誰にだって、苦手だったり嫌いだったりする言葉があるものです。僕でいうのなら「ストレス」とか「スランプ」だ。どちらも、言葉自体に罪はないけれど、自分で自分の状況を説明する時に、それらの言葉を使うのが嫌いだ。「あの仕事がストレスなんだよね」とか「いまの自分はスランプだ」とか。偶然にもふたつの苦手な言葉が「ス」から始まっていたので、どうせだったら「僕はスからはじまる3つの言葉が嫌いだ」などと言ってみたくなってきた。映画や小説でも3部作というのがおさまりがいいし。なので、3つになるよう「ス」からはじまる言葉を考えてみる。「スラムダンク」。真っ先に浮かんだスワードがこれだった。大好きな漫画のタイトルだし、生まれ変わって身長が2メートル近くだったら、ぜひともやってみたい、スラムダンクを。でも今回はダメだ。「ストレス」「スランプ」「スラムダンク」。試しに並べてみたら、語感的にはおさまりがよかったけれど、「嫌い」「嫌い」「好き」になっちゃってるから、意味的にダメだ。なので、スから始まる嫌いだったり苦手な言葉を探して辞書をめくってみる。あった。「ステイタス」。この言葉自体にも罪はないけれど、やっぱり自分のことで使うのが嫌だ。絶対に口にしたくないし、しないけれど、もしも小粋な魔法使いにタクト的なものを振られて「この車が僕のステイタスシンボルなんですよね」なんてことを言わされてしまい、その夜に魔法がとけたのなら。それはもう強烈な自己嫌悪で布団にもぐっても朝まで寝付けないと思う。よかった、そういうことを口にするタイプじゃなくて。そもそも車なんて持っていないけれど▼3つの嫌いな「ス」言葉はさておき、「スランプだったのかもしれない」とあとから振り返るのは悪くないような気がしている。インタビューがそう。春の珍事でインタビューをさせてもらう回数が増えてきた結果として、同時に増えたのは反省だけではなかった。あくまでも〝自分なりに〟ではあるのだけれど、手応えもまた増えていたのだ。ある仕事などはわりと快心の手応えで、その時にふと思ったのが「あれ? ここ数年のインタビューってスランプだったのかも?」であった。くどいようだが〝自分なりに〟なのだけれど、快心のインタビューというのが、ここ数年間で数えるほどしか思い出せなかったのだ。ということは……と振り返ったというわけ。そしてそれは、時を経ているからなのか、自分でその言葉を使ってもそんなに悪いものでもなく、むしろ前を向けているような気さえするのが不思議だ▼もちろん、それだったとして(やっぱり何度もスのあの言葉を使うのが気恥ずかしくなってきたので代名詞で)はたからみるとわからないレベルの話だと思う。鮮魚店でいう軒先に並ぶ魚のように、プロフェッショナルとして、その時々のインタビューの獲れ高ってやつは一定の基準を超えていたはず。でもどうだろう。いや、どうなんだろう。急に不安になってきたけれど、この際、超えていたとして大切なのは〝自分なりに〟。どんな仕事でも長く続けている人は他者の評価がまず必要なもので、じゃないと、打席に立てず、稼ぐことができない。でも、その次に大切なのが、自分なりにということ。どんなに他者の評価が高くても、自分なりにがいまひとつな状態ばかりだと、結局は続けていけない気がする。この場合の自分なりにという言葉を意訳してみると「ところで、お前は自分の仕事のどこが好きなの?」という自問自答につながるのだと思う▼というわけで、打席だ。打席数を増やすことが「自分なりに」という自問自答も増やせるのだから。さりとて、どうすりゃインタビュー打席を増やせるのかが、今日のところはまったわからないけれど、どうやら春の珍事にしている場合じゃないことだけはたしかだぞと、桜散る東京に思う週末です(企画)