20240315(金)
ヒョーショージョー

▼表彰されてしまった。全国カタログ展・文部科学大臣賞受賞。とりあえず、響きがすごい。アウトドアブランド・LOGOSのルーツは漁師さんのワークウエア=カッパで、そのカタログの最新版での受賞だった。いまから10年ほど前から、全国の漁師さんをモデルとして撮影を積み重ねてきたカタログで、撮影はすべて関(暁)くん、デザインはPANKEY、編集と文章がPUNCH LINEであった▼存外にうれしかった。このカタログには故人が笑ってくれている写真が掲載されているのもひとしおだ。担当プロデューサー寺Pのおじいちゃんが愛媛の島で漁師をされていると聞き即オファー。写真としてはリアルに漁の様子を捉えることが狙いだったから、おじいちゃんの船に同行させてもらう。「兄ちゃん、ついてるな。今日は一年で何日しかない〝ベタ凪〟っていうおだやかな海や」。きっぷがいい。まさに、漁師。昔はヤンチャな人だったのかもと思う。職人気質で厳しいタイプでもあっただろう。でも、熟練の所作で船を滑らせながら孫のことを語る様子は、ずっとデレデレで愛がダダ漏れだった。そんなカタログが文部科学大臣賞受賞。存外でひとしおにうれしかった▼さて、存外とは「思いのほか」の意のやや古風な表現らしい。ではなぜに「存外」だったのか? それは、今回のことがあるまで、表彰のイメージがネガティブだったからだ。ネガティブなトラウマ体験、それは中学3年生時の愛知県・長距離継走大会優勝のこと。優勝そのものはとってもうれしかったけれど、あるイベントがきつかった。八幡駅という地元の小さな駅から市役所まで、優勝旗を持たされたり表彰状を手にしながら、凱旋パレード的に歩かされる僕たち。パレードなんて気取ってみたところで、都会じゃないから人かげもまばら。たまにすれ違う人は、僕らがなんで凱旋しているのかなんて知らないから、もれなくキョトンだ。恥ずかしい。パレードというよりも罰ゲームだった▼あのパレードは、いったい誰が考えた企画だったのか。具体的には思いつかないので、漠然と偉い人を恨みながらのゴールは市役所だった。市長さんに表彰されて、そのあとで記念写真撮影という段取りらしい。市長さんからなにか労いの言葉ももらった気がするけど、漠然と偉い人を恨みながら歩いてきて具体的に偉い人である市長さんの言葉なんて、一切お覚えているわけがない。ちなみに、実家に飾られているその時の写真は、僕だけじゃなくて部活のメンバーみんなが不機嫌な顔をしている▼ところで、『capeta』という漫画がある。才能を描く天才である漫画家・曽田正人作品なので、名場面はいくつもあったはずなのに、なぜか印象的に残っているシーンはこんな感じ。フォーミラーカーのレースを終えた主人公が、2位だったか3位だったかで、表彰台にあがるも優勝は逃したという場面だったと思う。主人公は優勝できなかったのが悔しくて不機嫌な顔のまま表彰台にあがろうとするが、チームの監督に諌められる。お前を支えるメカニックや関わるスタッフ全員のために、レーサーだったらちゃんと喜べと。『capeta』を読んだのは大人になってからだったのでいたしかたなしだけど、中学3年生のあの時に、罰ゲームのようだろうがちゃんと喜んでいたのなら。町ですれ違ったまばらな人たちも、クリクリ坊主頭の中学生が旗持ってうれしそうに大喜びしていたら、きっとつられて笑ってくれた気がする▼今週発表された米アカデミー賞でも、ちゃんと喜ぶ人たちがいた。日本映画界の快挙ともいえるふたつの受賞のことだ。『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督や『君たちはどう生きるか』の鈴木敏夫プロデューサー、鈴木さんから電話をもらってその電話越しにでも高揚しているのがわかる宮崎駿監督も、みんながちゃんと喜んでいた。つられて、テレビを見ていた僕も幸せな気分になれたのでした▼というわけで、今回はちゃんと喜ぼうと思っています。LOGOSの歴代プロデューサーのみなさま、やったね! 関くん、渋井くん(PANKEY)、さすがです! そして、なによりも協力してくださったすべての漁師さんへ。ありがとうございました。感謝の最上級は「幸甚の至りです」と表現されるようですが、まさにそんな気持ちの週末なのでした(唐澤和也)