20240223(金)
誰かのオレガノ

▼もったいない。英語で言うと、What a waste!。引っ越しをきっかけに料理をすることが、まぁまぁ増えてきたからか、もったいないと感じる機会も増えている気がする。今週もそう。火曜日のこと。月刊LOGOS「春のレシピ企画」の撮影終わりで料理家さんが余った食材をみんなにわけてくれたのだけれど、大阪在住のスタッフが持って帰るのは無理がある。山岡は「ムール貝」ほかを持ち帰るようだが、全部の食材をお持ち帰りするほどの食いしん坊ではない。男性陣スタッフは、はなから興味なし。結果、各種食材がちょっとずつ残っている。もったいない。残るは、ジャガイモ、パプリカ、ウインナー、セロリ、パセリである。もったいない。「もったいない」と「もったいない」で挟んでみた食材をあとさき考えずに「持って帰る」と決めてみた▼帰宅後、さてどうしよう。携帯のお料理アプリで「セロリ パスタ」の2ワードで検索してみた。イメージがまったくわかなかったのがセロリだったのだ。どんな感じなんだ、セロリ料理って。ふむふむ。「たっぷりセロリと豚バラのエスニック風パスタ」なんてレシピがある。ナンプラーとレモン汁と鷹の爪を加えるらしい▼一夜あけて水曜日の夜。仕事終わりのスーパーにて、人生で初めてナンプラーを買う。しょうゆみたいな容器だ。しょうゆみたいなナンプラーを開封しつつ「たっぷりセロリと豚バラのエスニック風パスタ」を作ってみる。簡単だ。食べてみる。意外といける。というか、かなりいける。残る食材のひとつ、ウィンナーを使ったスープも作ってみた。電気圧力鍋を使う簡単メニューで、丸ごと玉ねぎとベーコンとニンニク、最後にコンソメをぶっ込んで炊飯モードで炊くだけで、美味。もはや料理じゃなくて魔法だ▼翌日。木曜日のランチは、事務所から自宅に戻って作ることにした。残る食材は、ジャガイモ、パプリカ、パセリである。パプリカはどうとでもなりそうなので、「ジャガイモ パスタ」で検索してみる。間違っても「ジャガイモ パセリ」は選ばない。かなりの確率でヒットするであろうポテトフライがランチなのはいかがなものかだし、そもそも無類のパスタ好きだから。そして選ばれたのが「じゃがいもとエビのマリナーラ風パスタ」。ニンニク、カットトマト缶、オレガノ、そして都合がいいことにパセリも使うらしい。レシピには乾燥パセリと書いてあるけど、ま、いっか▼ひとつ気になったのが、オレガノだ。ニンニクとカットトマト缶は事務所近くのスーパーでゲットできたけど、オレガノは売っていなかった。そもそもオレガノの味覚がイメージできない。レシピ的にスパイスっぽいけどどんな味なのか? バスで自宅まで戻る間に、検索はせずに妄想してみる。ヒントは、ニンニクとトマト缶、そしてマリナーラ風。マリナーラってなんだろう? マリン=海的ななにかか? ニンニクとトマトと海的ななにかということは、地中海風なんちゃらなパスタなのかもしれない。となると、オレガノはイタリアンなトマト料理で使うスパイスなのかもしれない。あ、ピザを頼むとついてくることがあるアレか。アレだとして味は? なんとなーく薬草っぽかった気がする▼自宅近くのバス停に到着したのは10分後だった。ここからスーパーも近い。でも、薬草だったらなくてもいっか。「じゃがいもとエビのマリナーラ風パスタ(オレガノ抜き)」を作って、レシピにはないけどパプリカも加えて、昨日の残りの玉ねぎのスープと一緒にいただいてみる。うーむ。いまひとつ。ごめんよ、オレガノ。薬草だったらなくてもいっかとか思ってしまったが、案外と重要だったのかもしれない▼そして、夕方。後輩と打ち合わせの約束があったので、傘を片手に都立大学という駅のほうへ。交差点の信号が青に変わって、ふと視線をあげた瞬間に面食らうこととなる。自転車のカゴからはみ出すのはネギだと相場が決まっているけど、交差点の向かい側から近づいてくるその自転車は大量のセロリをはみ出させているではないか。花束のようなセロリだった。「たっぷりセロリと豚バラのエスニック風パスタ」ならば10人分は作れそうな大量っぷり。大家族なのだろうか? ナンプラーは常備しているのだろうか? 止まらぬ妄想を抱きながら、都立大学のスーパーに立ち寄ってオレガノを探してみた。あっさりと見つけてゲットした〝俺のオレガノ〟を使って、来週は「じゃがいもとエビのマリナーラ風パスタ(完全版)」を作ってみようと思う(唐澤和也)