20231223(金)西村くんは仕事が楽しい
▼年末に「仕事が楽しいんだよね」と友が言う。西村くんだ。20歳からの友達で、僕と同じ歳の腕のいい理容師。関西出身の彼は東京に出てきて10代でプロになったから、もう40年近くも同じ仕事を続けている。なのに「いま、仕事が楽しいんだよね」と言う。目黒の鳥貴族という居酒屋で、AIスタッフのさゆりちゃんがとってくれたいつもの席で。「飽きっぽいはずなのに、俺もすっげぇ不思議なんだけどね」と西村くんが言う▼昨年の西村くんは脳梗塞で倒れた。今年は奥様が大病を患った。いまはふたりとも元気になったけれど、「仕事が楽しい」という心境には死を近くに意識したことが大きかったらしい。こういうことを大袈裟に言わず、さらりと語る西村くんは粋な男だ。休日に奥様とふたりでスターバックスでコーヒーを飲みながら、とりとめもないことを話すのが小さな幸せだと、これまたさらりと口にする。まったくもって粋じゃない僕は、はっきりとした口調でこう言った。「大いにうらやましいです!」▼振り返れば、この年末は部活のようだった。だったというかいまも継続中の部活の名は「忘年会部」。12月2日から始まって、この週末までで小計10回。週3回ほど開催のイベントを部活と呼ばずとしてなんと呼ぶのか。ふだん会えない人に会える口実があるってだけで、忘年会部は素晴らしい▼はたして今週の水曜日も部活だった。衛藤のキヨコさんと小池の花さんというふたりの女性陣がメンツという両手に花状態の忘年会で「今年はどうだった?」と聞いてみた。「今年は……楽しかった!」と同時に答えるふたり。彼女たちに西村くんの話はしていない。なのにリンクする「楽しい」という言葉。思えば、毎年恒例で年末に会う人みんなに聞いている質問に「来年の目標を漢字ひと文字で」というのがあって、今年の部活ではすでに2人が「楽」を選んでいる。なぜか同じ漢字を答える人がいないのもまた恒例だったはずなのに「楽」は2人。まぁ、2023年がいまひとつだったから、来年こそは!の願いを込めての「楽」かもしれないけれど、いずれにせよこの言葉や単語がついてまわる年末だったりする▼仕事が楽しい、かぁ。仕事に限定するのなら、どうも僕はこの言葉を乗りこなせていないように思う。仕事以外であれば、楽しいはいっぱいある。テレビで阪神戦を見る、神宮球場で阪神戦を見る、東京ドームで阪神戦を見る、などなど。忘年会部も楽しいという形容詞が一番お似合いだ。けれど、仕事となると「おもしろい」という形容詞は思い浮かぶが楽しいはいまだかつてない感情だと思う。あったのだろうか? いや、なかったと思う。そんな僕だからこそ、さらりと粋に「仕事が楽しい」と語れる西村くんが友達でよかったとつくづく思う▼来年の僕の目標漢字は「書」である。2023年は「風」で自由なイメージの言葉だったことを思えば、ずいぶんと仕事に直結している。けれど、西村くんとの忘年会部効果なのか、ふと、その漢字にひとつ足してみた。「楽書」。強引に読めば、ラクガキ。ピカソはその晩年に「やっと子供の頃のように描けるようになった」と語ったらしく、僕はこのパンチラインが大好きなのだけれど、あの天才の一万分の一ぐらいのニュアンスでいいから、落書きのように書けることも増やせたなら。性格的に全部は無理だから、ちょっとでいいから、増やせたなら。仕事が楽しいに一歩近づけるかもしれない▼そして、部活は続く。来週は15年ぶりぐらいに再会した沖縄の大くんと竜次との部活が楽しみだ。ど年末24日のM-1も楽しみでならない。そんなこんなで、来週のこのコラムはおやすみです。少し早いですが、みなさま、よいお年を(唐澤和也)