20231201(金)
デスクトップ・タイムスリップ

▼まるで、シャボン玉のように。書いたそばから消えていってしまえばいいのに。今回はそんなとりとめもない、メモのような話です▼漫画の力みたいなことをずっと考えいる。来年7月の発売に向けて「コツコツが勝つコツ」(by柊人)を合言葉に10月からの2ヶ月で7本の書籍用原稿を書いて思うところがあったことがひとつ。そして、漫画をめぐる、とある別企画の取材が明日あることがひとつ。結果的にいつもにも増して漫画読書量が増えているのだけれど、幾人かの漫画家のいくつかの作品を読んでいて思うのは「年齢対クオリティ」が高すぎるということ。費用対効果的な意味合いとしての造語がわかりにくいかもなので別の言い方をすると「なぜ、漫画家は年齢を重ねても現役バリバリなのか?」ということ▼来年7月の書籍は2009年時点の取材をベースにしており、ある漫画家にはストレートにこう聞いていた。「なぜ、プロの漫画家は現役感が強いのでしょうか?」。作家は答える。「現役がすべてだからでしょうね。過去にどんなにすごいヒット作を描いていようが〝今なにを描いているの?〟と問われるのが漫画の世界だと思うから」。そして続ける。「……漫画家=現役感が強いというのは、手塚先生が現役のままお亡くなりになった事実が、我々にも影響を与えていると思うんですよ。はじめた人がずっとトップだったから、あとに続いた人もサボれない。〝手塚先生も50歳になったらサボってたから〟なんて言えないんですよね(笑)」。2009年も2023年のいまも(たしかに!)と思う。たしかに、神様は最期まで神様だった。そして、10年ちょっと前に思っていたこと(なぜ、漫画家は年齢を重ねても現役バリバリなのか?)を10年ちょっとたってもまだ思うということは、より、漫画家がすごすぎるぞということ。だって、10年ちょっと前でもベテランと称される人たちもいたのに、それから10年ちょっとという時を経てもなお、いまだに現役バリバリなのだから▼さて、「コツコツが勝つコツ」スタイルは、とにかく机に向かう時間が増えるもの。その結果、得難い体験ができたりもするのだけれど、たとえば、タイムスリップ。いや、机に向かう時間が長すぎて頭がおかしくなったわけじゃなくて、あることをふと思い出しての体験だった▼神様かぁ。もしご存命中にインタビューができたのなら俺はなにを問うていたのだろうと妄想していて、ふと思い出したのだった。神様ご本人ではないが、神様きっかけであの人に会えた記憶があるぞと。そこで、パソコンのフォルダを探して、時を超えて、2009年、タイムスリップの目的はリリー・フランキーさんである。神様・手塚治虫生誕80周年展覧会が江戸東京博物館で開催されるとのことで、そのパブリシティ(宣伝)インタビューだった。リリーさんは手塚治虫さんの大ファンで、けれどもあの人がふつうのコメントに終始するはずもなく、氏特有の視点が魅力的だった。「漫画はアートか否か?」という命題に対するリリーさんのコメントも大共感だった▼そして、タイムスリップは続く。よせばいいのに、血液型A特有のマメさゆえに作成してるインタビューリスト(何年に誰にお話を聞いたかがひと目でわかる)で、西暦何年に旅すればいいかを思案する。あれ? 年末だし俺は忙しかったはずでは? と一瞬躊躇するが、タイムスリップの魅力には抗えない▼選んだのは、2012年。生前の志村けんさんにインタビューできた奇跡の年である。志村さんは言う。「俺、緊張しないで仕事するのって失礼な行為だと思っていますから。ただし、緊張するのと自信がないのとではまったく違う。自信がないっていうのは、たいていの場合、準備不足なわけでしょ? 自分はそこだけは徹底的にやってきたつもりだから。万全の準備をする。その上で緊張するっていうのがいいんだよなぁと思います」。ライターというよりも、我が人生に刻まれたパンチライン。緊張することは悪いことじゃない、準備は絶対に大切であることを教えていただいたのだった▼タイムスリップは楽しかったけれど、この原稿としては、いよいよとりとめがなくなってきたところで、ふと思う。そうか。現役感が強いのは漫画家だけじゃなくて、芸人もそうだし、ヒップホップの世界だって50歳を超えても現役バリバリの人たちもいる。自分が好きな3大表現に共通して「過去の実績なんてどうでもいい。で、いまなにやってんの?」な現役イズムに貫かれていることに、なぜだかとっても励まされたのでした。ライターだってそうだから。「昔すごかったんだよ、俺は」なんて口だけで手を動かさない人には、そもそも仕事がこなくなる。だから、がんばれ、俺。書け、書くんだ、俺。タイムスリップはほどほどに。2023年もあと1ヶ月です(唐澤和也)