20231125(土)
インタビュー概論
▼インタビューは専門じゃない。そんな言葉のおかげで、逆にインタビューというものを意識してから、約何年たったのか。たぶん、約25年。いきがりまくっていた業界3年目のオールドルーキーに、その言葉を贈ってくれたのは編プロ時代の社長でした。「唐澤がこの仕事を続けるのなら、パソコンだとか車だとかのなにかしらの専門をもったほうがいい」。「だったら、インタビューですね!」と即答する僕。社長は眼鏡越しの目で笑いながら、「でも、インタビューは専門じゃないからなぁ」。そういうアドバイスでした▼その時もほかのことでも、ああしろこうしろというタイプじゃない人で、そういうところが尊敬できたし信頼できた。でもだからこそ、勝負できる気がしたのです。出版やWEB業界の先輩として信頼できる人が「専門じゃない」ということは、それを専門としようと志してきた人もいままさに志そうとしている少ないはず。だったら、いけるかもしれない。逆張りというやつです▼それから約25年のライター人生は、社長の言う通りでした。専門として僕がくくられたカテゴライズは「エンタメ」や「笑い」や「アウトドア」で、「インタビュー」ではなかった。そりゃあそうなんですよね。たとえばエンタメの世界で「映画」を専門にしているライターもインタビューをする。専門が音楽でも、政治でもそう。25年前の社長が言いたかったのは、インタビューとはカテゴリーではなく手段であるということ▼ところがです。この業界には「プロインタビュアー」を名乗るすごい方もいるので、ますます、専門=インタビューなどとは言えない我が身ではありますが、ところがなのです。先週土曜日の出来事は、ちょっぴり専門だった気がします。日本の下のほうのとある大学でのインタビュー概論的授業を担当できたのですから▼とある取材で知り合った大学教授(以下、R先生)との縁というやつがはじまりでした。季節はまだ夏のこと。取材後、多人数での飲み会の席でした。なにかの話の流れで「小学生にインタビュー教室みたいなのをやってみたいんですよね」と僕。「それ、大学生だとどうですか?」とR先生。酒席でのこういう話はビールの泡のように消えゆくものなのですが、なぜかふたりともが真剣だったのです▼そして、秋。その授業が思っていた以上に本格的で、教科書的なものも自分で作らなきゃという、自分でやりたいって言ったんだからそりゃそうだよね的事実に軽くめまいを覚えつつも、さぁ、当日。広い教室に、生徒はたったの4人。バスケチームも結成不可な少数精鋭っぷり。「なぜ、この授業を受けようと思ったの?」と聞くと、左の学生から順番に「単位がほしくて」「単位がほしくて」……以下、「単位がほしくて」。うむ、正直でよいです。彼らの実直さと4人という人数の少なさが緊張をほぐしてくれたのでした▼R先生はこの授業のことをなんと名付けたのか。聞くのを忘れてしまったけれど、まぁ「インタビュー概論」として。R先生と相談した内容は(1)自己紹介 (ライターという仕事紹介)(2)インタビューのやり方(著名人編)(3)インタビューのやり方(一般の人編)という3パート構成に。授業はひとコマ90分、この日は2コマか3コマでとのこと。「90分は長いっすね!」と思わず本音が口をついたのですが、これがあっという間だったのです▼うれしい誤算は、4人の生徒がインタビューというものに興味を持ってくれたこと。(2)の著名人編では、プロットと呼ばれる質問表と実際に印刷された原稿を読んでもらい、さらには、マネージャーさんに許可をとった上で実際のインタビュー現場の音源を流してみました。「どうだった?」と問う僕。それぞれに答えてくれた4人の学生。その感想が、いい意味でバラバラで、ちゃんと読んだり聞いたりしていないと語れない言葉だったのです。ライター人生はじめてのインタビュー概論。その授業そのものが、広い意味でのインタビューでした▼あっという間の授業を終えて帰路につく前のこと。男子トイレで偶然に顔をあわせた学生が言ってくれたのでした。「おもしろかったです!」。気持ち的には、ドラマ『下克上球児』の南雲先生ばりに、でも実際は「またね」かなんか答えながら彼に見えないほうの拳を握り小さくガッツポーズをする僕。まったくの新しい試みなわけで緊張感も激しかったけれど、やってよかった。R先生、貴重なチャンスをありがとうございました▼というわけで、日本の下のほうのとある大学での初回の授業が終わりました。初回というのは、これで終わりではなく、学生が任意の誰かにインタビューをして原稿を書いて提出するという続きがあるから。楽しみです(唐澤和也)