20231112(日)
日本シリーズと最終回考
▼超最終回。それは、単なる最終回ではなく、超のつくものでした。阪神タイガース対オリックスバッファローズの日本シリーズ。3月からの143試合を制し、さらにはクライマックスシリーズをも勝ち抜いた12球団のうち2チームだけが許される最終決戦。両者の力は拮抗しており、シリーズ成績を3勝3敗で迎えた7戦目の大一番。その超最終回。マウンドには我らが守護神・岩崎投手が立っている。パリーグの首位打者である頓宮選手に意地の本塁打を放たれるも最後のバッターの打球はややセンターよりのレフトフライ。この瞬間、38年ぶりの阪神タイガースの日本一が決まったのでした▼……と、出来事をつづるとこんな感じだったのですが、実は(どうなっちゃうんだろう、俺!)と不安とはまた違う、さりとて期待という感情でもない複雑な気持ちで応援していたのでした。だって、38年ぶりですよ? 自分が阪神ファンになった2002年から数えたら、はじめての日本一ですよ? そりゃあ、どうなっちゃうのか予想もつかないってもんです。チームが敗戦すると(俺の応援の仕方が悪かったのではないか?)と反省するのが阪神ファンあるあるなのですが、雌雄を決することになった先週末は世の中的にも3連休で、金曜・土曜・日曜の3日間を阪神に捧げることに決めます▼金曜日は移動日だったので、岡田監督がレギュラーシーズン中にしょっちゅう口にしていた「ふつう」を貫くこととします。返す刀で(ふつうの休日ってなんなんだろう?)との疑問は浮かびましたが、すべてはタイガースのため。自転車を走らせて映画を見に行く僕。野球とはまったく関係のない、というよりも、現実世界とはリンクしない世界観にひたりたくて近未来SF映画の『ザ・クリエイター 創造者』を鑑賞。大傑作でした▼一夜明けて、土曜日の日本シリーズ第6戦。朝から落ち着かず、洗濯や掃除をするも、時計の針がなかなか進みません。しょうがないのでスマホのアプリで簡単レシピを検索。いままでに作ったことのない韓国料理に挑戦してみようと、食材を買いに東急ストアへ。できあがったのが「ヤムニョムチキン」。うまし。片手にオリオンビール、片手にヤムニョムで夕方6時半のプレイボーイを待ったのでした▼結果、5対1で圧敗。強いよ、オリックス。昨年の日本一という肩書きもそうですが、なにより、パリーグを3連覇している実力は看板に偽りなし。とくに圧巻だったのが、オリックスの大エース山本由伸投手です。9回完投を許し14奪三振。となれば、阪神ファンあるあるの反省です。実は、日本シリーズの初戦で山本投手を打ち崩していたのですが、いい気になった僕はSNSにその喜びをアップしていたのです。俺が浮かれたからやり返されたんだと反省、即消去です▼さらには、日曜日のすごし方も反省。土曜日は掃除洗濯の合間に阪神関連の動画を見まくっていた。阪神に入れ込みすぎだったのかもしれない。じゃあどうしようと思案した結果「半分仕事をするってどうだろう?」と中途半端なことを思い付きます。漫画家あだち充さんの『MIX』という漫画を21巻まで読破。前回のコラムで来年の夏にとお伝えした書籍の重要人物のひとりの描く作品なので、どこかのタイミングで読んでおきたかったのです。これが、傑作。未読な人のために詳細な紹介はさけますが、あの名作『タッチ』の続編ではないけれど絶妙な地続き感のある青春野球漫画です。すっと涙が流れてしまう展開があったりもしつつ、観戦時のごはんとビールも反省です。土曜日は張り切りすぎた。もっと簡単なやつにしようと「もやしと豆苗の豚巻きレンジ蒸し」をチョイス。うまし。そして、ビール。今日で最後なんだからちょっぴり贅沢をしようと地元のクラフトビール専門店へ。オーナーに事情を話すと(どんな事情だよって話ですが)いくつかのセッションビールをすすめてもらったのでした。完璧。いや、もうひとつ大きな反省点がありました。土曜日にはうっかり忘れていた、虎のTシャツを着込んで、いざ観戦です▼ところが、泣けない。超最終回に最後のバッターを打ち取って38年ぶりの日本一になったというのに、泣けない。岡田監督が5回、胴上げで宙に舞う。でも、泣けない。『MIX』で流してしまった涙で本日は打ち止めなのか。うれしくないわけがないんです。むしろ、ここ数年の出来事でトップ5に入るぐらいうれしい。なのに、泣けない▼もやもやしつつも、泣けることが感動の証左ってわけでもないよな、そろそろ明日に備えますかと、ふと動画をつけた瞬間に全身がフリーズしました。テレビの中で、阪神の選手がそれはもう楽しそうにビールかけをしていたのです。岡田監督がでっかいゴーグルをつけつつアナウンサーの質問に答えているのに若い選手たちが「イエーイ!」とかけるビール。ふだんは強面のくせにずっとうれしそうな岡田監督。フリーズが解けた瞬間、こぼれたのは笑顔と涙でした▼エンタメの世界では、クライマックスがあっての最終回は余韻を感じさせることが多いかもしれないというのが僕の仮説だけれど、今回の日本一に限れば感動の最終回はビールかけでした。エンタメには筋書きがあって、スポーツにはそれがないので、ゲームを締めくくるという意味での最終回は「余韻」ではないですもんね。そういう意味では、ビールかけという最終回から続く余韻は1週間たったいまも継続中で、ひとことで言うと、こんなにうれしいだなんて想像もしなかったということ。ありがとう、阪神タイガース。38年ぶりのアレのアレは最高でした(唐澤和也)