20231022(日)
YTYNDK

▼仕事には3種類あると教えてくれたのは、劇団時代の師匠でした。「やりたいこと」「やらなきゃいけないこと」そして「できること」。最後の「できること」というのが当時の僕には意外で、だからこそ心に残った言葉。25歳の頃のことです。いま振り返ると、そもそも仕事らしい仕事をしているわけでもなく、まだ何者でもなかった時期でした。劇団員ではあったけれど、お金を得ているわけじゃない。ということは、単純に言葉として好きだったのだと思います。好きなことをしていたけれど、働いているわけではない僕に仕事論のなんたるかなんてわかるはずもなかったのですから▼あれから30年。わりと働いてるし、けっこう仕事してきたもんです。その間ずっと、この言葉を胸に刻んで生きてきたわけではないのですが、ふとした時に思い出すのです。(俺はこんなことをやるためにこの仕事を選んだんだっけ?)みたいな瞬間に。働く人だったら、ありがちなぼやきですよね。でも、そんな時に、昔、師匠が言ってたなぁ、仕事には「やりたいこと」「やらなきゃいけないこと」「できること」の3つがあるって。なんてことを思い出していると、ちょっとだけ思考が煮詰まりのその先を目指すことがある。(俺はこんなことをやるためにこの仕事を選んだかはわかんないけど、まぁでも、できるし、やっときますか)と思う時もあれば(俺はこんなことをやるためにこの仕事を選んだかはわかんないけど、じゃあ、いまのお前はなにがやりたいんだよ?)と自問自答できたり。あるいは(俺はこんなことをやるためにこの仕事を選んだかはわかんないけど、やらなきゃいけないんだから、とにかくやれ。やってからそのあとで考えろ)などと一周して前を向けたり。3つあるのがいいのだと思います。人が煮詰まるのは選択肢が少ない時だし、煮詰待っている時に「仕事には〝やりたいこと〟と〝やらなきゃいけないこと〟があるんだよ」なんて二択で言われても、煮詰まりが極まりそうです▼コロナの時期は全世界的に煮詰まっていたので、やっぱり3つの言葉を思い出しました。「やりたいこと」が、やれない。「やらなきゃいけないこと」が、ない。焦りました。全自分的に焦りました。でも、師匠の言葉は3つです。仕事には「できること」がある。はてさてです。いまこの時に「できること」ってなんだろう? 考えて考えて、シンプルに自分だけでできることがいいなぁとかいろいろ考えて、あるきっかけも背中を押してくれて始めたのがこの「からの週末」でした。最近はその連載タイトル的なことを省いて、日付とその週のタイトルを書くように変更したのですが、もっと大きな変更ポイントは文体でした。1回目の原稿を、ちょっとだけ再掲してみますね▼…………まぁまぁ長いこと「誰かに読んでもらうため」の文章を書いてきたので、完全にそうでない原稿というのは書けない気がする。一時期、日記的なものをつけていた時も絶対に誰にも読まれないのに、いるはずもない読者にカッコつけて書いている自意識過剰っぷりを(唯一の読者として!)気づいてしまい、めちゃくちゃ恥ずかしかったし▼というわけで、100%は無理だけど、誰かにではなく自分に向けての比率が高い、いわばメモ的なことを書けたらなぁと思う。日々の忙しさのなかでいろいろとすぐに忘れてしまうから▼とかいいつつ暇だ。すっごく暇だ▼日々の忙しさのなかでなんか一切なく、自宅蔵書のコミックスでいえば「鬼滅の刃」「アオアシ」「達人伝」「寄生獣」「ブルージャイアントシリーズ」「かくかくしかじか」「バガボンド」などなど、すでに何周もしているものを再読し、あまつさえ号泣してしまい、しばらく余韻に浸りまくれるほどに、暇だ……▼この1発目の原稿が、2020年6月5日の掲載でした。当時は<100%は無理だけど、誰かにではなく自分に向けての比率が高い、いわばメモ的なことを書けたらなぁと思う>と思っていたんですね。我が事ですが妙に納得です。「ですます調」に文体を変更したのは、せっかく自分の事務所のHPなんだから、誰かに読んでもらえるように書こうと決めたからでした。なぜかその時は、ですます調のほうが読んでくれる人が増えそうな気がしたからでした▼「できること」で始めた仕事が「やらなきゃいけないこと」にも変わりました。だって、週末って毎週やってきやがりますから。でも「やりたいこと」になる週末もある。ごくごく稀にですけど、そういう時の原稿は自分ではずっと気に入っていたりします。ただですね、もしも読者のなかに「っていうか、2020年6月5日の原稿ってどこで読めるの?」という方がいたのなら、ごめんなさい。現在、このHPはあるタイミングでループしてしまい、すべての過去記事は読めない状態なのです。ずっと気になっていて、HPを制作してくれたスタッフに相談しようと思いつつ、日々の仕事に追われて、ほったらかしにしてしまっておりました。大反省。これぞ「やらなきゃいけないこと」でした。でも、できるかな? いや、やりたいです。みなさま、少々お待ちくださいませ(唐澤和也)