20231011(水)
天才の発明/凡人の努力

▼理系か文系か、昭和か令和か。その人のタイプや世代によってイメージするものが違う言葉のひとつは「発明」ではなかろうか。理系の人ならば、エジソンやアインシュタイン、はたまたドクター中松? 時代をさかのぼっての世界三大発明は「火薬、羅針盤、活版印刷術」らしい。でも、文系かつザ昭和な僕が発明から圧倒的にイメージするのは「松本人志」です▼あの頃。お笑い好きだった多くの若者にとって、松本人志といえば、大げさでもなんでもなく神でした。20代中盤以降の僕も然り。当時の松本さんはいまの感じとはちょっぴり違っていて、アスリートの世界でいうとイチローっぽいというか、安易な表現である「天才」という単語を脇に置いておいたとしても、「革命」とか「孤高」とかの漢字が似合うイメージでした。カタカナならば、すばりカリスマ。そんな神およびカリスマにどれぐらいの影響力があったかというと、愛煙家だった松本さんがタバコをやめたという一報が届くやいなや、禁煙者が一気に増えたのです。衝撃的でした。どんだけすごい影響力だよと。タバコ未経験者の方には伝わりにくいかもですが、ことほど左様にタバコをやめるって大変ですから。当時は超ヘビースモーカーだった僕もすぐにタバコをやめました。でも、ニコチンの魔力には勝てずにすぐに喫煙者に舞い戻ってしまったのですが、なぜか「すみません!」と松本さんがいそうな方向に頭を下げたものでした▼さて、神およびカリスマかつ天才と発明をめぐるお話でした。たとえば、お題があってフリップに回答を書いてボケるという意味での「大喜利」を発明したのが松本さんであることはお笑い好きには有名な話です。そして、言葉。お笑い好きからライターになった僕は、松本さんの言葉からの影響を受け続けているように思います。もちろん言葉なので、松本さんのゼロからの発明ではないけれど「その状況でそれを言う?」という驚きとおもしろさは、やっぱり発明でした▼たとえば、ざっとこんな感じ。空気を読む/噛む/週八で食べたい/スベる/SとM/(ネタの)引き出し/イラっとする/ネタがかぶる/絡む・絡みにくい/ドン引き/食い気味/グダグダ/ブルーになる/ハードルを上げる/事故る/ケガする/サムい/ダメ出し/へこむ/逆に/ドヤ顔▼お笑い好きとしてではなく、ライターとして影響を受けているのは「逆に」。これがもう魔法の言葉というか、ある文章に「逆に」と差し込むだけで、ガラス玉がダイヤモンドに変わったかのような輝きを見せる……こともあるほど。便利すぎるので、こりゃよくないほうの〝手なり〟だぞと、最近の仕事原稿では禁じ手に決めました▼「的な」も魔法のフレーズです。ただ、コチラは松本さんではなくて、千原兄弟のジュニアさんの発明だったかもしれません。いま調べてみても断定できなかったのでもうちょっとリサーチを続けてみますが、そのリサーチの途中でジュニアさんの発明的だったのだなぁと知れたのは、鬼越トマホークの喧嘩芸のはじまりについてでした。単独ライブのネタが出来ずにイライラが募っていた鬼越トマホークのふたり。ふとしたことから本気の喧嘩になったそうです。あまりの剣幕にふたりをとめようとする芸人。で、そこからの飛び火。いまや二人の芸として定番のあのやりとりですね。でも、その場ではまったくウケずに吉本興業をクビになることすら覚悟したふたりですが、そのやりとりを聞きつけて気に入ったジュニアさんが番組の企画にしたそうです。結果、人気コーナーとなり、鬼越トマホークの〝芸〟となったのだとか。あのやりとりは3人の発明だったのですね▼考えてみれば、漫才コンビたちのなかには自分たちの型を発明しているもの。たとえばミルクボーイ、たとえば笑い飯。どこまでを型とするかは視聴者や観客それぞれだとは思うのですが、その2組は異論のないところではないでしょうか▼そんなわけで、天才の発明(発想でもいいです)に憧れてライターになりたての頃は、日々、自分の凡庸さに落ち込みましたが、実は天才だって、すべからく発想がある(発明でもいいです)が秀でてるわけでもないんですよね。漫画だったら、発想はなくとも抜群に絵が上手いとか、プロとしてのさまざまな生き方があるもんなんですねーと思った水曜日です(唐澤和也)