20230924(日)
耳を凝らして
▼昔、昔、ちょっと昔。世の中で使われ始めた「勝ち組 負け組」という言葉が嫌で嫌で、インタビューの単行本を作ったことがあるのですが、この週末、確信しました。仕事を終え、ひとりでチェーン店のリーズナブルな居酒屋を訪れるワタクシ。リーズナブルな居酒屋ですから、正直、値段を見ずに食べたいものをたのんでおりました。すると、となりに若いカップルが席につきました。まずは、ドリンクの飲み放題を頼むふたり。そして、じっくりとメニューを見やる彼氏と彼女。「せーの」と声を合わせて、「焼きおにぎり!」と偶然一緒になったメニューに大笑いするふたり▼これですよ、これ。ふたりはリーズナブルな居酒屋でも、吟味して吟味して焼きおにぎりでした。いきなり主食かよ!というツッコミはさておき、決してお金に余裕があるわけではない。いっぽうで僕は、値段をみずに頼めるわけなので、少なくとも今日のところはお金に余裕はある。でもですね、じゃあどっちが勝ち組かといえば、 僕からすれば、圧倒的にこのふたりの圧勝でした。だって、笑いあう人がいるのだから。名作『イントゥ・ザ・ワイルド』という映画のパンチラインそのものでした。いわく「幸福が現実となるのは、それを誰かと分ちあったときだ」。僕の隣りの席の二人は、幸福をたしかに分ち合っていました▼そのふたり、たっぷり飲んでまぁまぁ食べた頃から、会話がおぼつかなくなります。耳を凝らしていた僕の最大級のおぼつかない会話がこちら。彼女「なんだっけ、なんだっけ?」彼氏「なにが?」彼女「あれあれ。仕方なく× ×するって言葉」彼氏「なくなく?」彼女「それもそうだけどそうじゃないやつ」彼氏「えーー、わかんない」彼女「アジアのどっかの国の食べ物みたいなさ」彼氏「えーーー、無理無理。ぜんぜんわかんない」彼女「やむやむ……じゃなくて」彼氏「あぁ、トムヤンクン!」彼女「ちがーう!アジアの食べ物忘れてー!」彼氏「もう、いいんじゃない?」彼女「いいね。なくなくでいいや」▼僕は心の中で叫んでおりました。「やむなく! やむやむ、ほしかったから! やむなく× ×するだから!」▼さてさて、昨日は父、正直さんの一周忌でした。早いですね、1年なんて。耳に残る父の言葉は、「お前はがんばんなくていい」と一周してがんばってると認めてくれた電話でのことでした(唐澤和也)