20230729(土)
島と風 ①
▼今週は礼文島と利尻島に旅した時の日記的紀行文を紹介します。まだ下書きなのでここからブラッシュアップする気満々ですが、PAPER LOGOSという年1回発行の雑誌に掲載される予定。東京から北海道稚内へと移動した旅の初日はこんな感じでした▼▼月曜日の山手線には不似合いな赤色のバックパックを背中からおろして、休み明けで仕事モードな人々にまじって吊り革を掴む。その赤色に若干の白い目が突き刺さるけれど、これから旅なのだから仕方がない。しかも、目的地での移動は原付バイクを予定しており、テント泊を含む4泊5日の旅。いままでは30リットルのものを使っていたけれど、赤いバックパックは最大45リットルに拡大できる中型のものを新調していたのだった▼旅の目的地は礼文島と利尻島。ざっくりとした目標はアウトドアを感じる旅。故の原付バイクであり、テント泊だった。加えて、僕の個人的な旅情報の師匠・佐久間さんいわく「礼文島はお花がきれいらしいですよ」とのこと。彼女が最近見たNHKの旅番組からの情報らしい。佐久間さんはクリーニング店のスタッフなのだが、全汚れ対応力がもれなく素晴らしい職人肌な方で「これぞ!」のクリーニングは佐久間さんに頼むと決めている▼そんなわけで、稚内へ。〝日本のてっぺん〟とも言われるこの地から、早朝のフェリーで〝花の島〟と呼ばれる礼文島を目指す予定。個人的にはあまり旅先の事前情報を入れすぎないようにしているのだけれど、佐久間さん情報が気になったので、ちょっとだけ調べてみると礼文島にはこの島だけの固有種も存在し、それを目当てとする観光客も多数存在するという▼存在と言えば、利尻富士と鹿だ。稚内の町をぶらりと原付バイクで走ってみたのだが、なんと言っても目につくのは、ここから約65.5km先の利尻富士だった。正式名称には富士が付かずシンプルに「利尻山」らしい。でも、末尾に富士をつけたくなる気持ちが痛いほどにわかる美しさ。とくに、ノシャップ岬からが絶景だった。頂上に雲を従えて遊悠とそびえ立つその様は富士感が満載だった。風さえ強くなければ、小1時間ほどずっと見つめていても飽きなかったと思う▼そうなのだ。日本のてっぺんは風が強い。くるくるっとした針金状のものが紙を連ねるタイプのメモ帳を愛用しているのだけれど、あまりに風が強くて押さえていないと勝手にちぎれて飛んでいきそう。バイクで走っている時の体感温度は春ではなくもはや冬だった▼そして、鹿。造船場近く近くで遭遇、群れで行動していた子鹿をかわいらしいなぁと思っていたら母鹿らしき存在と目が合った。彼女が立っているのはアスファルトなのに(つまり、人間が作った文明の上なのに)そこは野生の王国だった。アウェイ感。これより一歩でも踏み込んだら攻撃されるかもしれない感覚。馬と目があって正気ではいられなくなった哲学者がいたけれど、はじめてその可能性が理解できた気がした。鹿もかわいいけれど、怖い▼「僕だったら、礼文はともかく利尻は、フェリーを降りたらダッシュですね」。稚内で原付バイクのレンタルショップを営む若いオーナーが教えてくれた。両島ともに予約しようと電話しても出てくれなかったので聞いてみた答えがそれだった。原付バイクを借りたい人は(ほとんどが予約できていないので)束の間の愛車をゲットしようと、ダッシュをする人が殺到するらしい▼オーナーの言葉を心に刻みながら、その心のメモのそばに「無理だな」と記す。だって、大荷物だから。カメラマン関くんとそれぞれのバックパックとLOGOSの「ストレッチャートートバック」に詰め込んだ大荷物は、まるで夜逃げを決め込んだ夫婦のようだった▼▼続きます(唐澤和也)