20230113(金)
いい仕事ってなんですか?
▼あけまして、いい仕事ってなんなんでしょう? 2023年はじまりの〝週末〟は、あちこちでそんなことを考え続けていたのでした▼たとえば、東京の二子玉川。昨年購入したトーキョーバイクの自転車のおかげで、革命的に行動範囲がひろがっちゃったもんだから『THE FIRST SLUM DUNK』に夕方からふらりと出かけてみたりして。実はこれが3度目の鑑賞だったのですが、映画館に同じ作品を3度見に行くのなんてはじめてのことで、しかも、3回目もまんまと泣いてしまったことに驚きつつ、自宅から約20分で映画を見させてくれたともいえる東京バイクの自転車はいい仕事してるなぁと感謝したのでした。そんなふたつの感=感動と感謝を胸に抱き締めながらペダルを漕ぎはじめた帰路のこと。なかなかに急な坂道で息を切らしていると、電動アシスタント付き自転車のママさんが楽々と追い抜していくじゃありませんか。まるで疲れを知らない子供のように余裕の表情で。そんなママさんの背中を見せつけられた時、自転車界のいい仕事第1位はあれかもなと脱帽したりしたのでした▼はたまた、大阪の大正。かれこれ20年以上、大阪にはなぜか縁があって、いろんなところでうまいものを食べさせてもらってきたのですが、はじめて訪れた大正の街の飲食店のいい仕事っぷりにも感心しきりだったのでした。西、恐るべしと。まだ、こんなおいしい街があったのかと。さらに、たまたま居合わせたお客さんの言葉が粋だったのです▼その夜の僕は、LIFE誌の表紙を飾った歌姫・ビョークの笑顔が背中にプリントされたスウェットを着ていて、その上に厚手のフリースを羽織っておりました。でも、そのお店にフリースを忘れてしまい、どうりで寒いはずだとスウェットだけで戻ると、ひとりの酔客が僕のフリースを手渡してくれたのでした。そしてこんな言葉を添えてくれたのです。「背中のビョークも寒そうでしたもんね」。くうぅと。粋だなぁと。いつものこのコラムなら〝パンチライン〟と書く場面ですが、今回のテーマ的には言葉選びが〝いい仕事ですね!〟と膝を打ったのでした▼ところでなぜ、あちこちで(いい仕事とは?)と考え続けていたのか。きっかけはパンチライン山岡の一言でした。「枕の抜け毛が増えていたり、お気に入りの惣菜パンがコンビニから姿を消したり、そういう小さな絶望の積み重ねが人を大人にするのです」と語ったのは呪術廻戦・一級呪術師の七海建人ですが、うちの山岡も大人になったものです。小さな編集プロダクションとはいえ、新年の会議的なものはやっぱりあって、「今年の仕事の目標はなに?」と聞いてみると「漢字一文字ですか?」と山岡。僕が年末にいろんな人に聞く例のアレ=来年の目標漢字ひと文字質問と同様のノリの仕事版だと思ったご様子。ちなみに、年末に彼女に聞いたひと文字は「路」でした。そのココロはと問うと「三十路の路です」と言うじゃありませんか。いやいや、それなら「四十路」も「六十路」も「路」だからねとは思ったけれど、三十路の「三」よりも「路」を選ぶチョイスが山岡らしくてよかったのでした▼さてさて、年があけての僕の質問は漢字ひと文字じゃなくてももちろん大丈夫でしたし、ちゃんと考えてほしかったので、その場での答えを求めませんでした。それから2日後、彼女がメールしてきた目標が「いい仕事をする」だったというわけ。パンチラインに入ったばかりの頃は、まだ夕方の6時だというのに「眠いんで帰っていいですか?」と聞いてきた22歳が、「いい仕事をする」なんて言葉を口にする日がくるだなんて。感慨深いと同時に単純に深い言葉でもありました。人によって言葉の解釈も変わりそうです。その瞬間から、いい仕事とはなんぞや?と自分なりに考え続けているのですが、自転車や街で考えてみたのは、自分の職業であるライターのいい仕事とはなんぞやがいまひとつ言葉にならなかったからでした▼逆に、真っ先に思い浮かんだのはじゃないほうについて。つまり、ライターとしていい仕事じゃないほうの思い出です。あれは、30代前半の頃のこと。ふつうは「しかし、」と読点でつなげるところを「しかし。」と句点でとめて(ふむふむ、カッコいいぜ!)などとドヤ顔で悦に入っていた時期が、たしかにあったのでした。なんだったんだ、あれ。たかだか「、」を「。」にしただけなのになぜにあんなに誇らしげなドヤ顔だったのか。以上、あんな小手先のライティングは絶対にいい仕事のわけがないという、あまり思い出したくない、じゃないほうの記憶なのでした▼ということは、小手先の逆がいい仕事なんだろうか。すなわち、本質。なんだかまとまってきたようで、当たり前のことを言ってるだけな気もする。あと一歩にじりよってみましょう。本質、本質、俺のライターとしての本質。ライターなのだから書くという行為も重要だけれど、まずは聞くということ。しかも、ちゃんと聞くということ。さらに、慣れてしまわずに、願わくばまるではじめてのように毎回の現場で聞くということ。そんなイズムを持ちながら「あなたにとって、いい仕事ってどんなものですか?」とあらゆる職種の人に聞き続けたのなら。それはちょっぴり自分にとってのいい仕事な気もしてきたのでした▼あけましておめでとうございます。今年も。いーや、今年こそ。いい仕事ができますように。なーんて「。」を令和風にアレンジしてみたところで、また来週(唐澤和也)