20221222(木)
餅と漫才
▼今週は「餅と漫才」だった。タイトルとしていかがなものかとブレーキを踏みかけたものの、それでも今週はこのふたつのトピックスしか記憶になく、たしかにもち三昧だったし、確実に漫才尽くしだった▼まず「餅」。月刊LOGOSというWEBマガジンで岩手県の一関を旅してきたのだけれど、餅、餅、そして餅の2泊3日だった。一関は全国でも有数の餅文化を誇る地域で、一説には餅の味付けというか食し方に300もの種類があるのだという。月刊LOGOSはアウトドア誌上体感マガジンというコンセプトなので、餅つきを体験させてもらい、そのお餅でアウトドア料理を作ったりもしたが、その餅つきというのが民謡を歌いながら、かつ長い杵でみんなでつくのが独特で、底抜けにめでたくて、最高だった▼もうひとつの体験も最高ではあったのだけれど、身体のあるパーツにとってはハードだった。その部位こそ胃袋。ライター人生を振り返ると、そうか、自分は経験不足だったのだなぁと思い当たったのだが、いわゆるお店取材というやつのセオリーを知らない。たとえば、ラーメン店を1日で5軒取材するなどの仕事が僕らの駆け出し時代にはありがちだったりもしたのだけれど、なぜか、そういう仕事をふってもらえなかったワタクシ。1日5組の芸人取材はふつうにあったけれど、1日5杯のラーメンはなかった。なもんだから、お餅を扱うお店の取材をたいして考えもせずに、1日に5軒もぶっ込んでしまう▼日本を代表するお餅どころが誇る料理だけあって、どこもおいしい。けれど、お餅のもちは腹もちがいいのもちだったりもするわけで、1日5軒はダメだよ、俺。さらに、出会った一関の人が揃いも揃ってみんなやさしい方ばかりで、取材用の1人前だけじゃなくスタッフ全員分の3人前(か、それ以上!)を提供してくれたのでした。とあるお店ではすでにたくさんの量の大福とお団子をいただいていたのにもかかわらず、掲載時のバリエーションを想像していたら、ふと「おもちぜんざいWITHアイスクリーム」を追加で頼んでしまうというセオリー無知野郎こと僕。さすがにこちらのメニューは1人前だったけれど、同行したスタッフからの(わかってるんだろうな?)(お前が責任をとれよ)(残すんじゃないわよ)という熱い視線に気づき、ひとりで完食することになる。おいしかった。でも、おもちには1日に食べられる限界量があることを学んだ旅でもありました▼そして「漫才」。こちらのワードは多くの人がピンとくるであろう、あのM-1である。昨年は同世代の錦鯉の快挙にもらい号泣だったけれど、今年も激しく感情を持っていかれてしまう。決勝進出は、さや香、ロングコートダディ、ウエストランドの3組。惜しくも決勝進出はならなかったコンビも含めておもしろすぎる大会だったから、大会観戦史上はじめて、この3組ならどこが優勝してもいいやと感じながらの最終決戦4分間×3ネタ。出番順の兼ね合いで2ネタ連続での漫才となったウエストランドが大爆発し、第18代目M-1王者への道を駆け抜けていった。時代には決してそぐわない毒舌で、というのが痛快だった。もはや、審査員〝長〟である松本人志さんが「こんな窮屈な時代でもテクニックとキャラクターさえしっかりあれば毒舌漫才も受け入れられることに夢がある」と〝技術〟などのただし書き付きで評価していたのを忘れてはいけないけれど、芸人でもなんでもないただのライターなのに、ウエストランドの毒舌漫才にはなにかをプレゼントしてもらったような感慨があった▼ウエストランドはタイタンの所属。『カラス』などでお世話になっている爆笑問題太田さんの事務所である。タイタンは事務所単位での快挙をも成し遂げていて、キュウというコンビも決勝進出していた。7261組という過去最高エントリーからの決勝進出2組は、本当にすごいことだが、ちょっと前までは「この3組ならどが優勝してもいいや」とか思っていたくせに、ウエストランド優勝の瞬間に思いっきりガッツポーズをしてしまっていた自分はいかがなものか。サッカーワールドカップの時にも薄々気づいてしまったけれど、どうやら僕には〝にわか〟なところが多分にある。言葉を変えると、流されやすい。M-1の夜にもなにかに流されたのだろう。でも、そんな不純な自分を認めつつも、あの反射神経的ガッツポーズはウエストランドがなにかを変えてくれた、あるいはその可能性に胸が踊ったからだったのだとも思う▼そんなガッツポーズから小一時間ほど前。「餅」と「漫才」をめぐるちょっとした奇跡が起きていた。「イギリスで、もちつこうぜ」というぶっ飛んだ設定の漫才を、ヨネダ2000という女性コンビがやり始めたのだ。お餅取材の一関から帰ってきたまさにその夜に、そんな偶然ってあります? 笑った。もちろん、ネタそのものにも笑った。なぜに笑っちゃうかわからないんだけど、笑った。その上で「ぺったんこ」「あーい!」の掛け声が、民謡を歌いながらもちをついた自分たちの旅ともリンクして、さらに爆笑してしまったのだった▼餅と漫才。おいしくて、おもしろくて、ちょっぴり胃には厳しくて、ゆっくりと涙が流れる1週間でした(唐澤和也)