20220911(日)
阪神と横浜と山岡

▼ファンというものは、えらいもんだなぁとつくづく思う。5月19日の段階で「この令和の時代で、もっとも嫌いな言葉はなにかと問われれば「予祝」と答える」なんてことを書くぐらい、今年の阪神をあきらめモードで応援していたのに、交流戦前後の連勝などで、最大16もあった借金を完済した7月には(もしかして、ヤクルトがコケたら、もしかするかも?)などと淡い期待をしていたりもして。それは、コーヒーメーカーで豆の分量を間違えて白湯に近いほどの超アメリカンな一杯ができてしまったぐらいの淡さだったけれど、カップに注がれたその液体がコーヒーであることには間違いがないように、応援していることに変わりはなかった▼そんなこんなで、そよぐ風がすっかり秋色になった9月。1番打者と3番と5番という重要選手が次々とコロナ陽性となるに至って失速した虎のその後の戦いを見るにつけ、ついに、いろいろとあきらめたのだった。つまり、5月19日に終わったはずなのに、それから4ヶ月はなんだかんだと応援していたことになる。自画自賛ではありますが、我ながらファンというものはえらいなぁと思います▼その一方で、ファンというのはフレキシブルでもある。優勝をあきらめた頃から、クライマックスシリーズ進出へと応援目標をフレキシブルに変更。この週末のVS横浜2連戦に連勝すれば、リーグ3位圏内のチームへのクライマックスシリーズ参戦チケットを手に入れられる確率がかなり高くなるはず。ならばと、ビールやらつまみやらを完備しつつ自宅観戦に備えた土曜日の午後2時。なのに、プシュッと缶ビールのプルタブをあけたわずか1時間後の3回裏で敗戦が決定的になってしまう▼ならばのならばと、フレキシブルなファンの鑑として、虎から韓へ、応援から鑑賞へとシフトチェンジした。同じくファンである韓国映画&ドラマから、気になっていた『ナルコの神』全6話を一気見することに。おもしろかった。ストーリー的には粗もあるけれど、ハ・ジョンミ(『神と共に』『お嬢さん』)ファン・ジョンミン(『新しき世界』『ただ悪より救いたまえ』)、パク・ヘス(『イカゲーム』『ペーパーハウス・コリア』)などの〝役者力〟に引き込まれてあっという間の6時間強。ふと気になって虎の結果をチェックすると、7対0と見事なまでの圧敗、自分の選択に拍手喝采だった▼さて、虎の失速は残念だけれど、我が事務所内での朗報はスタッフの山岡が横浜ファンであるということ。一時期はヤクルトと4ゲーム差にまで迫るなど今年の横浜は強いけれど、彼女は昨年最下位の時にはすでにファンで年に何度も球場に通っていたから、まったくもって〝にわか〟ではない。しかも、野球の見方がシブい。虎には近本という新人イヤーから2年連続で盗塁王をとっている素晴らしい選手がいるのだが、昨年の雑談では「横浜には近本がいないっす。うらやましいっす」とシブい褒め方をしてくれたのだった。昨年の虎ならば、ルーキーの佐藤輝明がブレイクしていたから「サトテル、うらやましいっす」と言ってもおかしくないところなのに、近本というのがシブい▼そういえば、彼女が学生の頃にバイトとして仕事を手伝ってもらっていた頃もそうだった。「好きな映画とかってなに?」との雑談で「黒澤、やばいっす」と即答した女子大生こそ、山岡ひかるその人だった。黒澤とは世界のクロサワこと、黒澤明である。たしかに黒澤映画はおもしろいが、20代前半の女子としては好みがシブい。その後も山岡のシブみのブレなさは、北海道の真っ直ぐに伸びた一本道のよう。たとえば、彼女に任せている事務所で流す音楽は、かなりの頻度で「♪ 馬鹿にしないでよ! そっちのせいよ!」という百恵ちゃんのシャウトが響いている。百恵ちゃんとは私の母親世代のスーパースターである山口百恵さんである。シャウトされた歌詞は『プレイバック part2』というヒット曲で、1978年のリリース。いま弊社のホームページで調べたら、山岡の生まれは1993年だ。「♪ 勝手にしやがれ! 出ていくんだろう」(『プレイバック part2』の2番の歌詞)と百恵ちゃんが叫んだ頃、山岡はまだ生まれてもいやしない。なのに、シブい。たぶん、山岡の前世は昭和のおっさんなのだと思う。関係ないけど、彼女の好きな鳥はカラスなのだそう。やっぱり、シブい▼そんなわけで、ある意味で今年のプロ野球が完全閉幕しないで済んでいるのは、山岡がファンというだけで、虎の10分の1ほどではあるが、横浜を応援できているからだ。ダメ虎のせいなのかダメ虎のおかげなのか、横浜は2位抜けの可能性がかなり高まったけれど、阪神はどうなっちゃうんだろう。今日の中日戦さえ、勝てたならなんとかなるんだろうか。やっぱり、ファンというものは、えらいもんだなぁとつくづく思う。今日こそはと、この半年の間にいったい何度願ったのかという話なのだから▼さてさて、福留孝介選手が引退を発表した。45歳。最後のユニフォームは、中日ドラゴンズとなったが、虎でも活躍したスーパースターだ。勝負強くて、守備の鬼だった。「うまくなったから楽しいではなく、うまくなりたいという気持ちを持って野球をやっているのが楽しかった」との引退会見のパンチラインにぐっときました。お疲れ様でした(唐澤和也)