20220724(日)
小林くんは「ちょっとコンビニ行ってきます」と会社を辞めた

▼なにかっていうと「これは人生最大級の発見かもしれない!」などと、世間の人はすでに気づいているかもなことを、さも自分オリジナルの発見であるかのように勝手に盛り上がるのは、私の悪い癖だ。それでも、こいつはちょっとした発見ではないかと思っていることがある。いわく、いまの人生にないものをプラスして新しいなにかをしたいと願うことも大切だ。けれど、いまの習慣から、なにかをやめる・なにかをしないなどとマイナスすることも重要なんじゃないか。人生ってやつは、プラスだけがプラスではなく、マイナスからだってプラスがうまれるかも、というお話▼「なにかをやめる」といえば、タバコを吸わない=禁煙の話があった。あった、などと過去形で書くと、今回もまた挫折して喫煙者に戻ったのかと愛煙家の皆さまから歓迎されそうだが、禁煙はなんとか無事に続いている。2020年の4月1日から数えて843日間続いているらしく、もしも吸い続けていたら16872本分だった計算になるそうだ。語尾が受け売り口調なのは、まさに受け売りだから。アプリの数値を久しぶりに見て、受け売りを書いて、でも実は内心でテンションが上がっていたりもする。だって、単純な数字として16872本はすごい。マイケル・ジョーダンというバスケ界のスーパースターの通算得点数が32292らしいのだけれど(グーグル検索の受け売り)わずか2年とちょっとでその半分ぐらいというのがすごい▼さて、禁煙に続く新たな「なにかをしない」がお酒だった。禁酒である。先週の3連休が始まった朝、ふと「やめてみますか?」と柔らかく誓ってみた。きっかけは、締め切り。8月9日の入稿まで、怒涛の原稿ラッシュが続くのだが、その朝の直感が〝やばいぞ〟。どうにかこうにか締め切りは厳守できるだろうけど、7年前の最悪の刻と同じようなテンションになってしまうのは、やばい▼そもそも、最悪の刻とはなにか? 真っ先に思い出すのは「喜怒哀楽のすべてを無くしてましたね」という言葉。一緒に仕事をしていた後輩が、しばらくしてから教えてくれたものだ。途方もない作業量をこなすために、まるでAIのように効率しか考えていない仕事のやりとりだったという。たぶん、というか、確実にかなりの迷惑をかけていたのだと思う。そんな最悪の刻以降、私には強い目標がある。7年前のような自分にだけは絶対になりたくない。我が人生最悪の反面教師。ちなみに「最悪の刻」は「さいあくのとき」と読むイメージで、漫画『修羅の刻』の影響です▼そのこと以来、「ちょっと最悪の刻ってないか?」と自分で自分にダメ出しすることが何度かあって、今回もそのようなタイミングだったのだろう。ただ、この7年間で何度かあったダメ出しはかなり追い込まれている時期に発動したのに対して、今回は少しばかり余裕があったのがよかった。ふと「お酒でもやめてみますか?」と、やわらかく誓えたりもして。それは、「ちょっとコンビニ行ってきます」と出かけてそのまま会社をやめた昔の後輩の小林くんのような柔らかい退路のたち方だった▼そんなわけで、1週間。これがまぁ、効果テキメンな気がしている。世界陸上ならば、短距離走ではなく長距離走なイメージとでも言おうか。マラソン優勝者のタミラト・トラ選手は「30キロ地点からゴールまで1キロ2分50秒ペースで押し切って勝つ」と逆算して〝淡々と〟勝ちきったらしい。この〝淡々と〟が、いまの私には大切なような気がしていて、お酒が入ってテンションあがって翌日は反動でぐったりというアップダウンがないというのがテキメンポイントだ。トラ選手のように、淡々と書き切りたい。淡々のマックス系である喜怒哀楽をすべて失うことだけはさけながらも▼なんて書くと、禁酒前はすっごく飲んでいた印象があるかもしれないが、家飲みは350ミリリットルのビール1本でこと足りるし、居酒屋でも3杯ほど、多くても5杯も飲めばベロベロの千鳥足だ。でも、飲酒黒帯な人が10杯で酔った状態になるとすると、飲酒水色帯(柔道だと6級か7級らしい)な私の場合は2、3杯でそうなるってだけで、「酔う」「テンションが上がる」という状態に差はないということ。淡々と書き切るためには、日々の1杯から、ちょいと居酒屋の3杯まで、ゼロにしているフラットさがテキメンなのだと思う▼加えて、実感したのは、私って意外と酒に依存してたんだなぁということ。禁酒をやわらかく誓った3連休の初日なんぞは(今日は夕方の5時とか早めにあがって、明日からがんばろうかな。まだ2日もあるし。行くなら蕎麦屋かな?)とサボりたくなる瞬間があって、そのサボりの矛先は確実に酒とリンクしていた。文字通り「はっ!」とする私。禁酒したじゃないかと。というか、なんのために禁酒したかといえば、いまから淡々と書かなきゃ締め切り前に切羽詰まって、やばいことになりそうだからじゃないかと。バカなのか俺はと。というぐらい、酒に依存している自分に気づいたのだった▼ところで、今回のお酒のことは「なにかをしない」であって「なにかをやめる」ではない。8月9日の締め切りまでは酒を飲まないと決めたけれど、生涯禁酒するわけではなく、入稿後にはぐびぐび飲むと決めている。アップダウンがあっても仕事に影響さえなければOKだから。ま、ぐびぐびといっても、家でなら1杯、居酒屋でも3杯〜5杯なんですけどね(唐澤和也)