20220628(火)
傷だらけのおっさん

▼かつて、これほどまでに傷だらけになった取材があっただろうか。久しぶりのトレッキングや遊歩道散策による、足のマメ×3。すべりやすい岩場で転んだりしての切り傷×4。とはいえ、小笠原諸島の取材がハードなわけではまったくなくて、久しぶりの旅取材に、はしゃぎすぎただけのこと。そんな傷だらけのおっさんですが、「サンライズ/サンセット」企画を終えて、これから戻ります▼いつもにも増して、アドリブ感満載の旅だった今回。事前の口コミ情報で「北海道と小笠原は梅雨がないらしい」という誰かの言葉を信じて、なんだったら言いふらしたりもしてしまったが、行く直前に梅雨があけて父島到着以来ずっと快晴だった。つまり、小笠原にも梅雨はあったということ。ただし、改めてWEBを散見してみると、記事によっては「北海道と小笠原は梅雨がない」としているものもやっぱりあった。なので、私が出会った島の人の言葉として記しておくと、小笠原にも梅雨っぽいものはやっぱりあって、内地の関東が梅雨入りすると島では梅雨があけるそうだ。以後は、快晴の日が続く。そんなタイミングに我々は父島と母島を訪れたことになる▼そして、日程についても。これまた、途中から記憶がメチャクチャになっていて、6月17日発6月28日着の12日間の行程が小笠原旅行のデフォルトだと思ってしまっていた。でも、なにかがおかしい。宿泊したバンガローで知り合った旅行客は、6月17日の船で来島して、21日の便で帰る予定だという。あれ? じゃあなんで我々は12日間になったんだっけ? ジリジリと照りつけてくる夏の日差しにぼんやりする頭を無理やりに整理していくと「6月21日の夏至の日に撮影したい」というカメラマンの要望があったことを思い出した。「サンライズ/サンセット」という企画だけに。だからこその12日間。こちらでは「1航海? 2航海?」というような聞かれ方をするけれど、なんのことはない、我々は2航海だっただけのことだった▼怒涛の日々だった。まるで手塚治虫漫画のカレンダーがめくられていって刻々と時間が経過していく感覚のよう。いま、6月27日のおがさわら丸の船内でこの原稿を書きながら振り返ると、この旅に専属の脚本家がいるとしたら、できすぎた偶然の出会いの多さに、視聴率はだだ下がりで、ご都合主義のそしりを受けるかもしれない。でも、PAPER LOGOSは紙の媒体であり、ある種のドキュメント。物語を紡ぐ脚本家ではなく、ライターとしてはその出会いの数々がありがたかった▼PAPER LOGOSは2011年より1年に1回の発行であり、8号を重ねたタイミングでコロナ禍に巻き込まれた。2020年の9号は総集編、2021年は発行延期の憂き目を経験しており、だからこそのフルスイング中の2022年は、リニューアル1発目となる。コンセプトもリニューアルしようと思っている。従来は「アウトドア誌上体感マガジン」だったけれど、10号からは「旅、人、47」。旅をしながら人と出会う。アウトドアブランドの紙媒体なので、もちろんアウトドアクティビティを体感しながら、47都道府県に知り合いを作る。小笠原は東京都だけれど、23区からは約1000キロ離れたこの島でも、さまざまな業種のいろんな人たちと知り合うことができた▼ひとつ、再確認したことがある。それは、BBQって偉大なんだなぁということ。経費削減への思いと有能なシェフが同行していたことにより(有能なシェフ=カメラマン関くん)今回の10泊のうち4泊は自炊ができるコテージを選んでいた。そんな4つの晩御飯のうち2回もBBQのお世話になったのだが、注目すべきは、コミュニケーションツールとしてのBBQのポテンシャルの高さだ。2度とも初対面およびほぼ初対面な人たちとグリルを囲んだのだけれど、おそらく世界各国のどんな料理のジャンルと比べても「会話」つまり「コミュニケーション」の一助となるものは、BBQが最強だと思う。父島と母島の自動販売機の設置状況を調べている男性、学童保育をしている若者、元高校球児にして現役の消防マン、とにかくイルカを見たいとこの島を訪れた女性たち、島の家族などなどなど。これまでの人生では交わることはなかったかもしれない人たちが、グリルで焼かれた肉や魚や野菜を食べながら、笑ったり共感したりする。アウトドアの仕事を10年以上重ねて、ついついわかった気になってしまうことも多いけれど、コミュニケーションツールとしてBBQ最強説、もっと簡単にいうとBBQをなめちゃいけないぞと再確認したのでした(唐澤和也)