私の好きなフジロック
「アウトドア初心者、野外フェスに挑む」

 ギャラガー兄弟のノエルとリアムを中心に結成されたオアシスというバンドがある。というか、かつてあった。私が高校生の時に解散してしまい、ライブを見に行くという夢はロケット打ち上げ失敗並みにはかなく散った。

 それから数年後の2012年。私が19歳になった年に、ノエルとリアムが別のバンドで別の日に、日本最大級の野外音楽フェスティバルに出演することが決まった。「仲直りしてオアシスでライブをやってくれ!」と心の底から思ったけれど、ノエルとリアムを生で見られるというのはとてつもなく魅力的だった。というのが、フジロックに行く最初のきっかけだった。

 ひとりで行くことを決め、2日分のチケットを購入。それまでフェスに行ったことはあったけれど、野外で行われるものには行ったことがなく、まったくのアウトドア初心者である。
 準備を万全にしなければとフジロックについて調べまくり、さまざまな情報を知り得た。まず、開催場所が新潟の山のなかで、天候が変わりやすく、よく雨が降るので軽装備だとまずいということ。雨対策としてレインウエアや防水性シューズを用意するといいこと。さらに、どこでも持ち運んで座れるようにチェアや、飲み物も入れられるように水筒もあるとよく、晴れたら日焼けするので帽子も持参したほうがいいこと、などなど。

 それらのアドバイスをもとにアウトドアショップに行き、ノースフェイスのレインウエアや容量の大きい水筒を購入した。タワーレコードでちょうど夏フェスグッズも扱っていて、リラックマがデザインされた収束型のでっかいチェア、ゴアテックスと呼ばれる防水透湿性素材を使ったシューズ、つばのついた派手な模様の帽子も手に入れた。

 これで完璧だと意気揚々と新幹線で東京を発ち、越後湯沢駅で下車。そこから1時間弱バスにゆられたのち、ようやく会場の苗場に到着する。山のなかにステージが点在していて、グリーンステージと呼ばれるメインステージは、広々とした草っ原のなかで音楽を聴くことができる。開放感があって、空の青と木々の緑とのコントラストがとても美しい。

 ほどなくして大きな問題にぶち当たった。荷物を軽く、コンパクトにするという考えがなかったために、荷物がとにかく大きくて重い。当時、荷物を預けて自由に出し入れできるサービスがあるとは知らず、大きなバッグと大きなチェア(約3kg)を持ったまま会場を歩きまわっていた。
 広げたチェアの上に貴重品以外の荷物を置き、そこを拠点にするという荒業で事なきを得たが、すでに多くの体力を失っていた。

 その後、少し休んで元気になった私は、会場の端にあるステージまで行ってみよ、と無謀にも思い立ってしまう。
 地図上で見ると近く見えるけれど、実際はすっごく遠い。山道なので起伏があり、往復にも時間がかかる。早まるな、やめておけ、といまの私ならアドバイスするのだが、当時の私が知る由もなかった。水分をろく取らず太陽の下を歩きまわったせいで熱中症気味になり、見たいライブもあきらめざるを得ず、心の中でさめざめと泣いた。

 このように、はじめてのフジロックは苦労の連続ではあったが、それ以上の楽しみがあった。くたくたに疲れ切ってぼろ雑巾のようになっても、音楽を聴くと不思議と元気になるのだ。とくに2日目のノエルのステージの時に「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」というオアシスの曲をみんなで大合唱した時は、本当にきてよかったと思った。

 以降、フジロックにハマり、何度も足を運ぶようになる。コロナ禍もあって、ここ5年ほどは行けていないけれど。今年はひさしぶりにフェスにでかけて、思い切り浮かれた夏にするのも悪くないかもしれない。
(文/山岡ひかる/2023.04.03)