私の三姉妹

 私には三個上の姉と六個下の妹がいる。 妹は絶賛反抗期中。姉と私は仲良し。 でも、最初から仲良しだったわけじゃない。
 中学生の頃、私の反抗期が始まり、両親が家にいるだけでイライラしてしまうほどの重症だった。そこに姉がすぐ割り込んできて私を叱る。それがお決まりのパターン。
 姉は私より背が高くて力も強いから、登場した瞬間に私はなにもできなくなる。そんな調子で三年間くらい仲が悪かった。

 でも高校生になってアルバイトを始めてから、少しずつ仲良くなり始めた。反抗期が終わる少し前までは、姉が好きなK-POPを小馬鹿にしていたのに、仲直りした途端に私もすぐその道に引きずり込まれて、そこからは急速に仲良しに。恋バナまでできるようになった。

 そして私の反抗期が終わると、今度は妹の反抗期がスタート。 その姿はまるで私の反抗期をコピーしたみたいだった。
 たぶん私の反抗期をこっそり観察して学んでたんだと思う。反抗期のスタイルがまったく同じなので、妹が親にイライラをぶつけると、今度は私と姉で妹を叱る、そんな日常。

 そんなある日、姉が「半年後、一年間留学に行くんだ」と言った。
 ああ、やっぱりそうなんだ。
姉は小さい頃から海外に憧れていた人だから、その言葉を聞いて驚かなかったが、「妹の反抗期に一人で立ち向かうの!?」と不安になった。

 けれど、世間の次女というものは大概お気楽な性格をしている。

 もちろん私もその一人で次の日には「この家のピラミッドの頂点が私に繰り上がる」とワクワクしていた。

 半年後。
 姉は家を出て行った。
 その日は涙が止まらなかった。
 玄関でバイバイするとき泣きそうになったから、わざとそっけなく返事をした。
 自分の部屋に戻ると、机に手紙が置いてあった。
 姉からの手紙。
 家族全員分書いてあった。
 私はその夜、姉の布団で寝た。

 愚痴や、くだらない話をちゃんと聞いてくれるのは姉だけだったから、寂しくなった。
 そして私は見てしまったのだ。TikTokで女の子が留学中にいじめられた動画を。姉がそんなことされたら、悲しい。
 まだ起きてもない未来を勝手に想像して大号泣してしまった。
 半年前のワクワクは自分を正常に保つための防衛反応だったのかもしれない。

 姉が出て行った二日後。
 家族のLINEグループに写真が五枚送られてきた。 豪華な家、優しそうなホストファミリー、おいしそうなご飯、かわいい子供、そして甘えん坊な猫。
 その写真を見た瞬間、いつもなら「心配して損した」と思うはずが、心から安心している私がいた。

 それから、二ヶ月後。
 姉がいないはじめての家族キャンプ。 そこで私は、はじめて妹のことを「私の妹だ」と感じた。
(じゃあいままではなんだと思ってたの?)

「小さくて、うるさい人」。

 妹の名前は家族みんなで考えて、産まれる瞬間まで見たのに、私は実の妹を同居人だと思っていた。小さい頃なんて、手を繋いで歩くのもなんとなく嫌だった記憶がある。
 だが、大自然の中でお皿を洗っているとき、急に「いま熊が来たらこの子を守らなきゃ」と思った。その瞬間「この子は私の妹なんだ」と全身で感じた。 それ以降、私は「妹」から「姉」になった。

 そこからは妹の反抗期もかわいく思えるようになった。自分の中学生時代を見ているみたいで、「こう言ってほしかったんだよな〜」とか「ただ話聞いてほしいんだろうな」とか、妹の考えていることが、以心伝心してるみたいにわかった。

 ふと気になった。姉はいつから私を妹だと思ったんだろう?
 姉には姉がいないのに、誰からその感覚を学んだんだろう?

 いまも姉は海外にいて家にいない。寂しいってより「なんかつまんないな」って感じ。妹とは話すようになったけど、まだ反抗期真っ最中。恋バナは誰にすればいいのか。
 私たち三姉妹は、長い間一緒に暮らしてきた。 なんでも知っているわけじゃないけど、だいたいのことはわかる。 いつか離れて暮らす日がくるだろう。その日がくる前に三人で恋バナしたいと思った。

(文/塩谷小麦/2025.8.27)