教えておじさん
はじめに

 おじさんは、いつおじさんになるのだろう?
 ふとその疑問が浮かんだのは、十四歳ぐらいの時だったと思う。

 きっかけは、ある人の言葉だった。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤さんが三十代前半の時に「おじさんに片足を突っ込みかけている」的なことをブログかなにかに書いていて、それが頭の片隅にずーっと残っていた。自分のなかでそれまでの後藤さんは「お兄さん」という位置付けだったから、「おじさん」になるってどういうことなんだ?と思った。

 さて、私は男でもなければ、おじさんでもない。
 出身はコンビニすらない長野県の山間部にある限界集落。ゾンビ映画やドラマが好きで、ゾンビによる世界の終末に思いを馳せている。ヒグマの生態を調べては打ち震え、北海道で遭遇した時の対処法を考えている。
 一時は競馬にハマって、G1があるたびに馬券を買っていた。「なんで、隣りの馬が三着なんだよ!?」といった具合で全然当たらないので最近は買っていない。まるでおじさんのような休日のすごし方をしていた。

 社会人一年目は、うんざりするくらい怒られまくった。
「返事はうんじゃなくて、はいだろ」と、超初歩的なところでつまずいて怒られたし(最悪だ)、撮影現場などでの挨拶も苦手だったので入り直して挨拶その二をしたこともあった(とても最悪だ)。もうなにをしても怒られたんじゃないかってくらい怒られたのでストレスも溜まったが、幸いなことに十円ハゲはできなかった。

 でも、もちろんうれしいこともある。自分の書いた文章がWEBや書籍に載ると達成感があった。久しぶりに会った高校時代の友達に「いまなんの仕事やっているの?」と聞かれて、「ライターだよ」と答えると、「すごいね」と感心されたりもした。
 年末の三ヶ月間働きに働いた末にできた三百ページ超の分厚いカタログを実家に持って帰って親に渡したら、仏壇に置かれた時には笑ってしまったけれど。なかなか人ができない仕事にたずさわっていると思うと、なんだか誇らしかった。

 おじさんは、いつおじさんになり、私は、いつ大人になれるのだろう? 社会人になったら立派な大人だと思っていたのに、なにか違う。当時の私は子供のままだった。みんなはいつ大人になれるのだろうか。
 通勤電車に揺られる疲れ果てたおじさんも昔はお兄さんで、さらにさかのぼれば子供だったわけで。子供の時の夢はなんだったのか?とか、死んだ魚のような目だけど仕事は楽しいの?とか、聞きたいことが次々と浮かんできた。

 さまざまな人生経験をしてきた世のなかのおじさんたちなら、きっとなんらかの答えやヒントを持っているに違いない。そんなわけで、この「教えておじさん」が生まれた。
(文/山岡ひかる/2020.10.19)