やまたび 台湾旅行編
その四 台湾タピオカミルクティーを飲む

 翌朝、荷物をまとめて十三時発の便に間に合うようにホステルを出た。
 途中、見知らぬおばちゃんに呼び止められるが、わからない。道を尋ねられたのだと思うが、中国語がわからない。両手をあげてわからないというジェスチャーをすると、おばちゃんはわからないことがかわったのか、そのまま去っていった。

 空港には早く着いたのでフードコートに入ってみると、タピオカミルクティーを扱う店があった。台湾といえばタピオカミルクティーである。テレビやら雑誌やらの台湾特集にだいたいいつも出てくる。ほぉ、これが噂のタピオカミルクティーか。注文してみると、安いうえに量もたっぷりで、甘さもほどよい。飲み終えたあとで、もうひとつお代わりして日本に持って帰りたいくらいにおいしい。

 そうこうしているうちに時間がすぎた。重い腰をあげ、搭乗手続きをしようとカウンターへ向かうと、長蛇の列が。愕然とした。これはやばい。間に合わないかもしれない。やきもきしながら何度も時計を見るが、列が進むスピードはとてつもなく遅い。マジか。
 しかし、万が一のことを考えるのは途中で放棄した。乗り遅れた時のことは乗り遅れた時に考えればいっか。そう思うと不思議と間に合うような気がしてきた。

 ようやく長い手続きを終え、長い通路を走って、ギリギリの時間に搭乗口へすべり込むことに成功した。よかった、間に合った〜! と喜んでいたのだが、ラウンジにはまだ多くの人がいる。なんと出発が遅れていた。なんだ、買い物する余裕あったじゃん、と思ったものの間に合ったのだから、まぁよしとしよう。

 復路は乱気流に巻き込まれることもなく快適なフライトだった。機内で、ふと台湾に滞在した時間は二十四時間もないことに気がつく。だからバキバキの体をほぐしてくれると評判のマッサージ屋には行けず、ろくな観光もできず、台湾のごはんを心ゆくまで堪能できなかったのかぁ。とにかく日本から出るということを目的にしたせいで、心残りがいくつもある。せめて今度は二泊三日で来よう、そう心に決めた。

 短い旅を終えて羽田空港に降り立ち、見慣れた景色を見ると気が緩んだ。聞こえてくる言葉も日本語ばかり、案内板だってちゃんと読める。行きたいところに行け、食べたいものを注文できる。おばちゃんに話しかけられたって道案内することができる、日本なら。当たり前だ。でも、当たり前っていいなぁ、としみじみ実感する。

 自宅に戻り、荷物を投げ出してごろんとソファーに寝転がった。一度そうすると、もうなにもやる気が起きない。荷物整理は後日に行った。なくしたら困ると、バックパックの奥に押し込まれていたパスポート引っ張り出す。赤い表紙をめくり、真っさらだったパスポートに押された出入国スタンプをしげしげと眺め、にやにやとしていた。なんたって、パスポートに押された記念すべき一国目の出入国スタンプだ。二十六歳になる前にひとりで海外旅行に行けたことが、ことのほか誇らしい。
 ありがとう、深夜特急。そして、秋に行く香港旅行がいまから楽しみで仕方がなかった。
(文/山岡ひかる/2020.6.29)