ぞわぞわ映画館
『BLEACH』編
仕事を早上がりし、映画館最寄りの銀座駅に着いたのは夕方のことでした。お盆をすぎて一気に秋の気配を感じるようになった二〇一八年八月中旬、コロナのコの字もない二年前のこと。銀座の通りをゆっくり歩きながら映画館へと向かいました。
私はマンガ原作、とくに少年マンガの実写化が苦手です(詳しくは後述します)。今回は、この企画がなければ絶対見ないであろう『BLEACH』を選びました。
到着が早かったので、ひとまずフロアの様子を見に行ってみることに。上映するのは別館にあるシアターなのですが、なんと別館の施設は休館日でどの店も営業していません。シアターに直結するエレベーターのみ稼働してたので、乗って五階で降りると仄暗いフロアにはお客さんはおろかスタッフすらおらず、不気味なほどに静まり返っています。世界にたったひとり自分だけが取り残されたような気分を味わいましたが、上映十分程前にふたたび行くと、スタッフもお客さんもいたので安心しました。
別館のシアターはひとつしかありませんが、五百四十人が入れるほど大きく、シートの座り心地はなかなかのもの。「おーこれは、これは」とささやかな喜びを噛みしめました。しかし、座席にはかなりの空きがあり、上映を前にしてやや不安になってきます。このあいだ見たばかりの映画CMでは「大ヒット上映中!」と言っていたのに!
私が週刊少年ジャンプで連載していた『BLEACH』にどハマりしたのは、小学生の頃。とにかく久保帯人先生の描く絵がとても好きで、模写ばかりしておりました。なけなしの小遣いをはたいてグッズの収集もしていましたし、イベントにも行きました。
熱狂的なファンであったにもかかわらず、詳しくは割愛しますが二十一巻で尸魂界(ソウル・ソサエティ)救出篇が終わると燃え尽きてしまい、マンガを読まなくなってしまいました。実写映画化されたのは、それから十年以上経ったあとのこと。
映画の簡単なあらすじをご紹介しましょう。主人公の黒崎一護(福士蒼汰)は、幼少期から幽霊が見える特異体質。ある日、虚(ホロウ)と呼ばれる悪霊を退治する任務のために人間界へやってきた死神・朽木ルキア(杉咲 花)と出会います。一護は虚に襲われる自身の家族を守るためにルキアから死神の力を譲り受け、一時的に力を失ってしまったルキアに代わり、死神代行として働くことになるのですが︙︙。
映画のストーリーは初見の人でもわかるように練りなおされているので、原作とはけっこう違います。省くところは省くと言った感じで、ん?となったところもなくはないですが、ぐっと飲み込んでしまえば、問題ありません。
ストーリーよりも断然気になったのがキャスティングです。
一護のビジュアルは、けっこう原作に寄せているとは思うのですが、福士蒼汰では優男すぎる気もしました。一護はもうちょっと尖ってるほうがいいでしょう。
ルキアを演じる杉咲 花に関してはまず髪型が違いますし、キャラクターが持つ気品やミステリアスさもうまく表しきれていないと思ってしまいました、すみません。
もしも私がキャスティングをするなら誰にするか、と少しばかり妄想しました。黒崎一護は短髪&奇抜な髪色が似合う高良健吾で、朽木ルキアは絶対に堀北真希。彼女の猫のような目、凛とした雰囲気がキャラクターの生き写しのようなのです。そして、敵役として出てくる朽木白夜には色白で端正な顔立ちの岡田将生、阿散井恋次は若い頃の長瀬智也がしっくりきます。
おっと、話がそれてしまったので本題に戻りましょう。
独特な世界観を持つ少年マンガを実写化しようとすると、どうしても無理をしている感じやコスプレ臭が漂い、かつ、とりあえず人気若手俳優でも起用しとけばいいんだろう?的な人選に伴う棒読みのセリフやフレッシュな演技が、私の心身をぞわつかせるに違いない。そんなわけで【はじめに】でも書かせてもらったように、ぞわぞわ防止でこれまで見るのを避けてきました。
そして映画『BLEACH』。やはり、私の予想通りコスプレ感は否めません。が、さすが福士蒼汰と杉咲 花。思ったより演技力があり、全然ぞわぞわしません! さすがです。自分のなかでイメージができあがっている分、(思ってたのとなんか違う‼︎)(このキャラクターはそうじゃない‼︎)と内心で激しくツッコんでいたのでぞわぞわしている暇がなかった、というのもあるかもしれません。
そんななかでよかったのが、一護の父親を演じた江口洋介です。彼の等身大の演技、男くささや包容力。出番は少ないかもしれませんが、私は何度も彼に救われました。江口洋介よ、ありがとう。
もうひとつよかったのが虚で、人の魂を喰らう悪霊をCG化することで生々しさが増しており、いい感じにグロテスクです。ゾンビ好きな私は楽しむことができました。六本木ヒルズ森タワーの広場にある、巨大蜘蛛オブジェみたいな虚もけっこうよかったです。ちなみに巨大蜘蛛オブジェには「ママン」という愛らしい名前がつけられていて、全世界で九体存在するとのこと。
というわけで今回は、ぞわぞわ度は星一つ、思ってたのとなんか違う度は星九つという、驚くべき結果となりました。原作のファンでキャラクターのイメージを壊したくないという方にはおすすめしませんが、寛容な心をお持ちの方や、最近江口洋介が不足しているという方にはぜひ見ていただきたいです。
ぞわぞわ度
★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
思ってたのとなんか違う度
★★★★★★★★★☆
(文/山岡ひかる/2020.7.22)