ぞわぞわ映画館
『4月の君、スピカ』編
目黒川沿いの桜もすっかり散って、ポカポカ陽気が続いていた二〇一九年の四月中旬。まだコロナとも無縁だったので、自由に出かけることができた頃でした。
『4月の君、スピカ』を選んだきっかけは、マンガ原作の恋愛映画であること、フレッシュな若手キャストが多数出演していること、以上の理由からでした。
はい、そうです。どちらも苦手です。
夜、新宿の映画館を訪れた私はチケットを発券し、喉が渇いていたので売店によってコカコーラを注文しました。ビールもいいな〜とも思ったのですが、酔っぱらったあげく映画の内容をさっぱり忘れて原稿が書けなかったらどうしよう、と怖気付いたのでした。それに、これから見る映画にビールは不釣り合いな気もします。
じゃあ、ビールに合う映画は? と少し考えてみたのですが、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』あたりがぴったりかもしれません。広大なカラカラ砂漠を見つつ飲み干すビールはきっと、いや絶対おいしいに違いありません。
案内されたのは百六十人ほどが収容できるシアター。平日の十九時四十五分からの回で二、三十人ほど入っており、客層のメインは制服姿の女子高生でした。学校終わりなのか友達数人ときており、きゃぴきゃぴしています。なんせこの映画の原作は、『Sho-Comi』に連載されていた少女マンガなのですから。
そういえば、私も高校生の時は学校帰りに友達と映画を見に行っていました。しかし、見たものと言えば『猿の惑星』や『スター・ウォーズ』といった、きゃぴきゃぴとは程遠い、ごりごりのSF作品ばかり。
会場の様子を見ていてめちゃくちゃ気になったのが、ひとりできている男性客です。三十代くらいのサラリーマンや五十代くらいの中年男性がぽつぽつときていて、なぜ、この映画を? まさか、胸キュンを求めて? もしかして、青春を取り戻しに? といろんな疑問が浮かんだのですが、そんなことを考えているうちに映画がはじまりました。
あらすじはこうです。東京から長野県の高校に転校してきた早乙女 星(福原 遥)は、友達ができず、ひとりですごしていました。そんなある日、やんちゃな宇田川泰陽(佐藤大樹)とクールな大高深月(鈴木 仁)に出会い、二人がいる天文部に入部することに。三人は部活動を通じて交流を深めていくのですが︙︙。
映画は、少女マンガらしく綺麗な作品に仕上がっていました。かわいい女の子とかっこいい男の子による、美しい恋や友情が描かれています。たしかに、私も昔はこういう少女マンガを好んで読んでいたこともありましたが、二十代の半ばの私には少々物足りなく感じます。
ということは逆説的に、ぞわぞわシーンが目白押しでした。たとえば、暗がりで転びそうになる星の手を深月が握って、いい感じになるシーン。「手を握ってて、目が暗闇になれるまで」みたいなことを深月がいうのですが、キザなセリフとフレッシュな演技にぞわぞわしてしまいました。
泰陽が星に壁ドンして、「これからはお前のそばにいる!」と宣言するシーンも忘れがたいです。不意打ちの壁ドンに思わずぞわっとしました。完全に油断していました。
私は恋愛映画をあまり見ませんが、なんとなく自分の好みがわかってきた気がします。二〇〇六年に放送されていたドラマですが、『結婚できない男』というラブコメ作品がすごく好きです。
たとえば、お好み焼き屋で主人公の桑野(阿部 寛)が早坂(夏川結衣)にうんちくを語るシーン。「生地を混ぜる時は適度に空気を含ませる」「関西風は鉄板の上に厚さ3㎝ぐらい」「(トッピングのマヨネーズは)邪道」などと語ってこだわりのお好み焼きができたところにオーナーが現れ、「焼き方なんて楽しければなんでもいい」というようなことを言い放ちます。なんだかありそうな話で、私はとてもおもしろいと感じました。
誇張されているにせよ、「こういう人いそう!」 とか「こういうことありそう!」 と思えることとが私にとっては大切です。
なのに『4月の君、スピカ』ときたら︙︙。
でも、でもです。もちろんいいところもあります!
まずなによりもいいと思ったのは、私の故郷・長野県が舞台となっている点。自然豊かな山間の町に千曲川がゆったり流れているシーンが何度も出てくるのですが、見憶えのあるような景色で懐かしく感じました。また、星が綺麗に見えることも紹介されています。そうなんです! とくに冬は星がよく見えるので天体観測におすすめです!(その代わり寒いので防寒対策はお忘れなく)。
長野県はなんて素晴らしい場所なんだ、と映画を通して再確認することができました。ロケ地は千曲市ということですから都心からのアクセスもよく、北陸新幹線なら日帰りも可能です。戸倉上山田温泉によってゆったりすごすのもいいでしょう。
また、県民のソウルフード・信州そばは絶品です。というか、長野で食べるそばがどこで食べるそばよりもうまい、と私は自負しています。「私は、いつから観光大使になったんだ?」と自分自身にツッコミたくなってきましたが、ぜひいつか行ってみてください。
そんなわけで今回のぞわぞわ度は十段階中の七としました。前述したように、ぞわぞわシーンが多かったため、高めの評価となっています。強めのぞわぞわを味わいたい人にはもちろん、自然の風景や星空を見て癒されたい人にもぴったりな作品です。
ぞわぞわ度 ★★★★★★★☆☆☆
(文/山岡ひかる/2020.7.13)