こもごも雑記
「湘南サーファーのごとく」

 コロナに戦争とめまぐるしい世の中ではあるが、私は粛々と己の人生をまっとうするのみ。どんな波もサーファーのごとく華麗に乗りこなしてやろうじゃないか。とはいえ、ままならないのが人生というやつなのかもしれない。

 この5月に誕生日を迎えて30歳となった。19歳から20歳になった時は、お酒も飲めるし、タバコも吸えるし、私も大人になったなぁ〜と思っていた(全然そんなことなかった訳だけど)。29歳から30歳というのは少々複雑なお年頃で、うれしいとはあまり思えないし、むしろ考えなければいけないことが多いなぁと感じる。まるで波のようにさまざまなことがふりかかってくる。

 一つ目の波。ここ2、3年は結婚ラッシュで、続々と友人や知人の結婚報告が寄せられた。私も付き合っている彼氏と結婚の話をする。結婚指輪はどれにする? 両家顔合わせの店は? お互い結婚式を挙げるつもりはないというのは一致しているけど、それを抜きにしてもさまざまな手順を踏まないといけないみたいだ。正直、結婚ってノリと勢いでできるもんだと思っていたけど全然違った。まぁ、しようと思えばできるけれど、お互いがまったくそのタイプじゃなかったということだろう。高級料亭であちらのご両親とコース料理を食べた時はとんでもなく緊張した。まだまだいろんな波がありそうだ。分厚い雑誌『ゼクシィ』を端から端まで読んで勉強しよ︙︙。

 二つ目の波。精神的にはまったく昔と変わらないのだが、体の変化はさまざまな場面で感じる。たとえばサシの入った和牛をたらふく食べたいという気持ちはあるものの、いまは一切れ、二切れ食べたら満足してしまう。また、赤身のオージービーフを豪快に食べたいという気持ちがあるものの、硬さにやられて歯と顎が悲鳴をあげる。

 洗面台に立って歯を磨こうとすると、前髪に茶色の毛が1本混じっていることに何日か前に気がついた。白髪じゃなくてよかった〜と安堵する自分がいて、少しおかしかった。メラニンの生成量が減少すると黒髪から白髪になっていくらしい。そのうち白髪染めに手を出すようになるのだろうか、とぼんやり考える。
 毛量はあいかわらず多く、梅雨時は増えるワカメのようにわさわさとうねってボリュームが増す。美容室で髪の毛を切ると床一面が私の髪の毛でおおわれ、美容師によっては「見て、すごい量でしょ!」とその光景を見せてくる。薄毛に悩まされることは当分なさそうだ。

 そして三つ目の波。私よりも変化が著しい父と母のことである。目に見えて老いていて、もうすっかりおじいちゃんとおばあちゃんだ。会うたびに小さくなっているような気がする。それでも30歳の私をいつまでも子供のように思っていて、会えば「ごはんはちゃんと食べているのか?」と聞いてくる。口に出して言わないけれど、私以上に自分達の心配をしてほしい。

 20代が終わり、悩ましい30代が幕を開けてしまった。ちなみに3年後の33歳に、もっとも災いに見舞われるらしい「大厄」という名の大波を迎える。人生で一度たりともサーフィンをやったことはないけれど、江ノ島周辺に出没するサーファーのごとく華麗に波を乗りこなしたい。とはいえ、ままならないのが人生。沖に流されて大海原を漂流している自分の姿が容易に思い浮かぶ。
 そんなことに想いを馳せながら布団にもぐる晩秋の夜であった。
(文/山岡ひかる/2023/11/08)