こもごも雑記
「ひと夏の無駄づかい」

 あれはいまから4年前、ちょうど天皇陛下が即位され元号が「平成」から「令和」に改まった頃。
 私は公開されたばかりの『プロメア』というアニメーション映画が気になっていた。なんでも俳優の堺雅人さんが声優で出演している。どんな演技をされるのか見たいと思い、映画館に赴いた。

 とんでもない熱量の物語が怒涛のスピード感で展開され、度肝を抜かれた。上映時間2時間弱なのに体感10分。すごい映画を見てしまった︙︙と思いながら帰宅した。あまりにもおもしろかったので、それから何度も映画館に通い、グッズを買い集めたり、コラボカフェに行ったり。とても楽しかったけれど、当然ながらお金もかかる。だんだんと負担に感じてきてしまい、ある時にグッズの収集を一切やめ、引越しのタイミングでほとんど手放してしまった。

 そして現在、当時と同じくらいとてつもなくハマっているものがある。そう、クレーンゲームだ。きっかけは夏頃、渋谷のゲームセンターに気まぐれで立ち寄ったことだった。クレーンゲームでホーローのお皿、立て続けに牛タンのおつまみをゲットし、もらった抽選券で彼氏が3つのサイコロを振ると、なんと5の目が揃うという奇跡が起きた。カランカランと店員が持っているベルを鳴らして「おめでとうございます、このなかからお好きな景品を選んでください」という。大当たり。わぁ、ゲームセンターって、クレーンゲームって楽しい!という思いが深く刻まれたのだった。

 そこからもちろん、ゲームセンターに行くようになる。自宅から近いお店では、クッションを何個もとった。最初は難しかったけれど、コツを掴むとおもしろいようにとれるのだ。

 さらに、である。オンラインクレーンゲームなるものがあり、それはインターネットを通して実際にクレーンゲームを操作し、景品をとることができる。最初はお試しのつもりでアプリをインストールしたけれど、ほしいアクリルストラップが登場したので課金してやってみることにした。巷のゲームセンターよりも相場が高く、安くても1プレイで200円ほどかかる。はじめは全然取れなくて、なんとかして1個ゲットした。次にやるともっと少ない回数でもう1個ゲットした。そんなふうにお金をどんどん使っていき、最終的に15個のストラップを手に入れた。そんなにとってどうするの!?と思う方がおられるかもしれないが、私にもわからない。気がつくと、箱根に行って一泊できるくらいの金額をすってしまっていた。

 クレーンゲームにのめり込んで知った情報で言えば、景品の価格は風営法により、おおよそ1000円以下と定められている。さらに、ある程度お金を使わないと景品がとれないような仕様の確率機と呼ばれる筐体も存在する。かわいらしいデザインでカモフラージュされているが、なかなかの曲者で、景品をつかんで上に持ち上げてもぼとんと落としてしまう。

 さすがにクレーンゲームで散財しすぎて、このままではやばいという危機感を抱きはじめた。アホみたいなお金の使い方もたまにはいいと思うけど、ゲームセンターに行く度はまずい。行ったつもりで貯金箱にお金を入れるという「つもり貯金」をはじめて、尚且つ、1ヶ月の上限を決めて遊ぼう!と貯金箱を購入した。そう決めても、オンラインクレーンゲームは誘惑に負けてやってしまう。ついにアプリをアンインストールした。

 最初は楽しかったのに、やりすぎるとしんどくなってくる。削除すると、なんだかすっきりした気分になり、自宅を出て外を歩くと2匹の猫を見かけ、空には羊雲が浮かんでいた。気がつけば夏が終わろうとしていた。
(文/山岡ひかる/2023/10/23)