からの週末2020626(金)
木村拓哉と鮫、あるいはキムタクとサメ

▼自粛期間中の自分で自分にびっくり第一位は「自炊なんてほぼしない自分が、まさか、片栗粉を買って、野菜を揚げて、アツアツのお出汁につける日が来るとは。しかも、アツアツも美味だけど冷めてもおいしいなぁ……なんてしみじみする日が来るとは!」だった。まぁ、あまりにも暇でそれなりに凝ったことがしたくて、野菜の揚げ煮びたしに挑戦しただけなのだが、第二位は「まさか、キムタクにハマる日が来るとは!」だった▼というわけで、今週はキムタクの話▼若気の至りというか、不遜の極みというか、キムタクに限らず〝売れてるってだけでなんか嫌い〟というモードが若い頃にはあったのだった。愛知県の片田舎から上京したての頃なんてとくにひどくて、映画で言えば単館系がお好みであらせられて、テレビドラマなんてテレビドラマというだけで〝ケッ!〟であそばした。うわぁ、あらせられてあそばした若い頃の自分が本当に恥ずかしい▼「若い頃のほうが柔軟だ」なんていう言葉をよく見聞きするけど、それはたぶん半分当たっていて残り半分は的外れだ。新しいテクノロジーが登場してそのノウハウについて(スマホのフリック入力とか)は絶対に若い人のほうが柔軟に覚えちゃうと思うけど、若い頃の己の好き嫌いなんて柔軟の真逆の頑固の極みで、偏っているのがふつうで、たとえば若い頃の〝俺様〟の好き嫌いでいえば<キムタクなんてどこがいいのかわからない。演技もワンパターンだし、カッコいいだけでしょ?>という酷評だったように思う▼重ね重ね、若気の至りとは言え、お恥ずかしい限りです。<お前さぁ、あと25年ぐらいすると拓哉様のすごさにひざまづくからな!>とタイムスリップしてダメ出ししたい気分です。だいたい、カッコいいだけでこんなにも長くスーパースターでいられるはずがないし、もしカッコいいだけだとするのならそれはそれで逆にすごいし、しかもたぶん(ずっと見続けていないので断言できないけど)最近じゃあカッコいいだけじゃないいわゆる演技力みたいなものも進化しているんじゃないかと思う▼それにしてもだ▼タイムスリップしてダメ出しはできないけど、記憶をタイムスリップさせてすごいなぁと再確認させられたのは、お笑いだけは〝売れてるってだけでなんか嫌い〟という経験が一切なかったなぁということ。売れてる人=テレビに出ている人は昔からおもしろかったし『マンスリーよしもと』という月刊誌の編集をしていた頃は、まだ売れていないけどおもしろい人はのちに絶対に売れたから(売れるまでに時間がかかる場合とかはあったけど)〝売れてるってだけでなんか嫌い〟とはならずにすんだのだと思う。芸人の世界は他のジャンルとちょっと違うのだろうか?▼いや、芸人の話じゃなくて、キムタクにハマった話だったのだった▼自粛中、それこそ愛知県から上京してきた頃ばりに単館系の小難しい映画を借りることが多かったのだけれど(ちなみに、いまだにレンタル派)なぜかふと『マスカレード・ホテル』を借りてみた。キムタク×長澤まさみ主演の映画だ。これがまぁ、すとんと腑に落ちるというか、僕にとってはあの時期にピタリとハマるタイプの映画だったのだと思う。キムタクの存在感が、なんというか、安心だった。それこそ、テレビに出ているおもしろいある芸人が、311の時に「こういう時こそいいともでタモリさんを見たい人だって多いはずだ」と自粛ムードへのパンチラインを語ってくれたことがあったけど、そんな感じ。キムタクこそが日常だった。単館系の小難しい映画も好きだしこれからも見るだろうけど、自粛中のあのムードでは断然『マスカレード・ホテル』のほうがおもしろかったし、木村拓哉の安心感がすごかった。それ以来、キムタクが気になりドラマの再放送等チェックしたり、今日も『検察側の罪人』を中目黒のTSUTAYAで借りて帰ってくるなどしていまに至るというわけ▼てな話を、エンタメ好きな後輩Aにしていたら「わかります!」と激しく共感するではないか。自粛中の彼女も評論家筋の評価が高かった邦画を見たが、まったくハマらなかったと。やっぱりこういう時は「サメ映画ですよね!」と。ん? キムタク=サメ映画? 彼女いわく、サメ映画は小難しいことをなにも考えずに見て楽しめるのが最高らしく、それと僕がキムタクにハマったのは「同じですよね!」と言うのだった▼うーん、ちょっと違う気がするけど、ま、いっか▼というわけで、最近の僕の木曜夜のお楽しみなら決まっている。木村拓哉様最新主演ドラマ『BG 身辺警護人』だ。もちろん、昨日も第2話を見てたっぷりと堪能し<誤差なし>という決めゼリフをちょっと声を出して出演者たちと一緒に口にしていた自分に自分でびっくりしていたのは言うまでもない(唐澤和也)