からの週末20220402(土)
アンラッキー7

▼人間というのは、あまりにもダメダメだと笑えてきちゃうものなのでしょうか。阪神タイガースが開幕からの7連敗を記録した昨夜@東京ドームは、私にとっては今シーズン初の球場応援日だった。東京ドームということは、対するのは好調・巨人。入場制限が撤廃された今年のプロ野球だけれど、ビジターチームのファンが集う3塁側席は、ぼちぼち集まっている程度。空席も目立ち、満員にはほど遠い。そりゃそうだ。昨日までに6連敗しているチームを敵地で応援するだなんて「君たちはどんだけメンタル強いんですか?」と尊敬されるレベルの猛者たちだけなのだから。でもしかし、そんな猛者たち(私を含む)の応援も虚しく、藤浪晋太郎がまさかの3被弾。あっという間に劣勢に立たされてしまう。パチスロでいうところの千円で大当たりを引く、の逆。まさに、アンラッキー7な夜となってしまう▼とはいえ、ずっと笑っていた。ダメすぎると笑えてくるという私の性分もあるが、それ以上に大きかったのが、チケット西村こと、西村くんと一緒の観戦だったからだ。指揮官の采配への不満を愚痴り、藤浪の3被弾に肩を落とし、ふたりともが大好きな選手である大山の本塁打に歓喜した。西村くんは20歳の頃にバイト仲間として出会った同じ歳の友人なのだが、あれから30年以上の月日が流れ去ったというのに約3時間も喜怒哀楽を一緒にできるというのはとってもいい時間であった▼実は、西村くんは1ヶ月ほど前に脳梗塞で倒れている。腕のいい理容師である彼は、当然ながら多忙な職場に勤めているのだが、忙しかったその日、突然に利き腕の右手が痺れたという。違和感を感じつつも休憩時間まで、だましだまし働いていると、控室で右手と右足に強烈な痺れが襲う。身体の右半分が動かない。(あぁ、脳梗塞だ)と彼は直感したらしい。意識はある。けれど、すぐに救急車を呼ぶかわりにしたのが、自問自答。(後遺症が残るのは嫌だな)。走馬灯のよう思い出が蘇り、そしてこう思ったという。(だったらいっそこのまま……)。奥さんに(いままでありがとう)という感謝のラインを送ったあとで(ん? こんなところで死ぬのはやっぱり嫌だな)と思い返す。私を主語とするのなら、よくぞ思い返してくれたって話だ。そして、仕事仲間に頼んで救急車を呼んでもらい、やっぱり脳梗塞と診断されて緊急入院。幸運にも大きな後遺症も残らずプロ野球観戦ができるほどに復活したが、治療薬との兼ね合いで、グレープフルーツジュースは絶対に飲んではいけないらしい。その代わりにというわけでもないが、高かった血圧を下げるために水を毎日2リットル飲んでいるらしい▼西村くんの話を聞いている時、言葉にはしなかったけれど、だから30年以上も友達なんだよなぁとずっと思っていた。最近、つくづく世の中はいろんな人がいて様々な価値感があるのだなぁと痛感される出来事が続いている。まるで空の上の神様的な存在が私という人間をテストしているようにその手の出題が続いているのだが、西村くんのエピソードにはつくづく癒された。脳梗塞という死に至る可能性も高い病なのだから「癒される」という表現が場違いなのはわかっている。でも、妙にほっとさせられたのだった▼たぶん、神様的な存在のテストで出題される問題に、正論が多すぎて嫌になってきていたのだと思う。正論で語るならば、西村くんの走馬灯からの自問自答は「けしからん!」となるのだろう。いわく、後遺症が残ろうがなんだろうが命というのものは大切にしなきゃだめだーー!と。でも、30年以上も西村くんと友人をやっている私からするとものすごく理解できる言葉だった。彼は理容師という職業に誇りを持っている。後遺症が残るということは、その仕事ができないということだ。子供ふたりを奥さんとともに真っ直ぐに育てた立派な父親でもある。そういう人が走馬灯の一瞬でいろいろと考えたうえで、おそらくは私なんぞが想像したこと以外にも一瞬でいっぱい考えて(だったらこのまま……)と思っちゃったということ。私は、ことの是非ではなく、その思っちゃった想いに、ものすごく共感する。人間っぽいなぁと思ってしまう。もちろん、ご時世的にも、正論の例のような人がいることも尊重するし、こちらの感覚を押し付けようとは思わない。でも、逆も然り。押し付けられるのもごめんこうむりたい▼西村くんとの会話は、試合開始前の東京ドームのゴミ箱の前で交わされていた。20歳の頃から酒の強かった西村くんだが、脳梗塞をきっかけに酒量は減らしているそうだ。そういう意味では、貴重な1本である缶ビールをコンビニで買い、ふたりで話していたのだが、彼が最後に結んだ言葉にも笑わされて癒された。「ただまぁ、嫁さんにはラインのこと、めちゃめちゃ怒られたけどね」▼ウィル・スミスのビンタ事件も然りだと思うのです。暴力はいけない。それはわかる。でも、映像を見る前の一報で「アカデミーショーでビンタ!」と告げられた日には、反射神経的に笑ってしまったし、個人的に一番気になるのはウィル・スミスの奥さんがあのビンタをどう感じたのかということ。「正しさだけじゃ生きていけないとわかってんのに 誰に許しを乞うの?」と歌ってくれたのはライムスターの宇多丸師匠だ。「思っちゃったんだからしょうがない」という企画を自身のラジオ番組で笑いにしてくれたのは爆笑問題だ。人間だものと言ったのは……って、もういいか。こんな感じで今回の原稿をしめようと思ったら、阪神の開幕8連敗が決まりしたとさ。ぎゃふん(唐澤和也)