からの週末20220220(日)
アンチョビ・ラプソディ
▼なぜにあんなことになったのか? 学芸大学の商店街の街並みをすぎて、目黒通りから武蔵小山方面へと向かう私。26号線と呼ばれるバス通りを、とぼとぼと歩いていたのは、あるものを探したけれど3軒のコンビニどれにも置いていなかったからだ。ファミマ、セブン、100円ローソン。全滅だった探し物は「アヒージョの素」。名刺2枚分ぐらいのサイズ感で、中に2回分の粉が入っていて、いつもは学芸大学駅前の東急ストアで買うやつ。それが、どのコンビニにもない。そんなわけで私はスマホの動画を見ていたのだった▼なんなんだろう、あの意地のようなものは? どうしてもアヒージョを食べたいというほうの意地は、わかってくれる人も多いはずだ。口がお好み焼きになっているとか、口がカレーだからほかは無理というやつと同類なのだから。そんな食い意地のほうではなくて、こりゃあ探しものがないなとわかった100円ローソンの地点からいつもの東急ストアに戻ればいいだけの話。だって、歩いて15分ほどなのだから。でも、その時の私は絶対に戻るのが嫌でその選択だけは消去していた。じゃあどうする? 動画頼りだった▼探した動画はもちろん「アヒージョの作り方」。簡単だった。たっぷりのオリーブオイルをあたためて、ニンニクを刻んであるものを入れて、具材を加えるだけ。あ、鷹の爪も刻んでた。具材は冷蔵庫にあるもんでいいや。OK、これで素なんていらないぜとはなったのだが、新・あるものをゲットしなければならない。「アンチョビのフィレ(缶詰)」だった▼その動画を見たのは3軒目のコンビニ・100円ローソンだったのだが、そこにアンチョビ様はいなかった。残る2軒のコンビニにも置いていない気がする。学芸大学の駅前の東急ストアには置いてありそうだ。戻るか? いやいや、それだけは選択肢から外したはずだった。だったら、となり駅の武蔵小山の東急ストアならばどうか? いや、バカか。ここから30分はかかるし、さすがにその意地の意味がわからない。どうする、俺?▼……というテンションが冒頭の26号線と呼ばれるバス通りで、とぼとぼとと途方に暮れていた私だった。言っておくが学芸大学駅前の東急ストアに一切の恨みはない。ただ、その日は戻りたくなかっただけ。だから、学芸大学というよりは武蔵小山方面に26号線をとぼついていたのだけれど、突然に救世主が現れた。まいばすけっと目黒本町店である。大手スーパーには及ばずとも、大手コンビニよりは格段に食材の扱いが多い便利なお店。一目散に探すのは新・あるもの、別名「アンチョビのフィレ(缶詰)」だ。さほど広くはない店内の缶詰の置いてある棚を探す。あった。あっさりとあった。なんだか妙にうれしい。まだアヒージョを作れてもいないし、食べてもいないのに達成感がえげつなかった▼まいばすけっとでは新・あるもののほかにニンニクだけを買って、自宅に戻るや、さっそくさっき見た動画の通りに作ってみる。昨日の鍋料理の残りのキノコ類と冷凍庫にぶっ込んでいたエビとホタテを解凍して加えてみる。もちろん、最初にスキレットにたっぷりめのオリーブオイルに刻んだニンニク&アンチョビも忘れていない。うむ、よき香り。結果、めちゃめちゃにうまかった。アヒージョの素よりもおいしいと言わざるを得ない。もちろん、そのおいしさの秘密は、なんちゃってがすぎる私の料理の腕前のわけがなくアンチョビ様のおかげだった▼あまりのうまさにアンチョビ様について検索ってみると、うま味成分が凝縮された発酵食品とある。いくつかの解説に「オイルサーディンとは別物」とあったのが個人的にはわかりやすかったのだが、食材ではなく調味料の一種なのね。どうりで食の国・イタリアでよく使われるはずである▼さて、それ以来、素を使わないアヒージョが沼と化していて、あの日は戻りたくなかった学芸大学駅前の東急ストアで新・あるものの瓶詰めなんぞを購入して、暇さえあれば作っている。なんだったら、いつもよりちょっとお高いパンを買うとさらに楽しめるという小銭にモノをいわせるコンボにも気づいてしまった。嫌な大人だ。だが、困ったことに続・あるものが登場したのかもしれないと思いつつ、この文章をタイプしている▼それは「ちょい足しの隠し味でお料理がグッと美味しく!」との宣伝文句に惹かれて鍋用に購入した「鳥味塩」という調味料のこと。素を使わぬアヒージョでは毎回これをなんとなーく垂らしていたのだが昨日のアヒージョでは忘れてしまい、結果、なーんか物足りなかったのだ▼そしていま、うららかな日曜日の午後ないま、鳥味塩を隠し味にしてアヒージョを作ってみたりしている。アンチョビ様がすごいのは言うまでもないが、鳥味塩もやるやつなのかもしれない。天気予報どおり、昨日からの雨があがって太陽が斜めに降りそそいでいて、絶好のアヒージョ&ビール日和だ。それはそうと、26号線沿いのまいばすけっとには旧・あるもの、別名「アヒージョの素」はあったのかな? ま、いっか。新と続のあるものでスキレットをざわつかせてやろうと思う(唐澤和也)