からの週末20211224(金)
永遠などないと何度思い知れば学ぶのだろう?
▼世間ではクリスマスムードだというのに、いまの私は、そして僕は途方に暮れている。昔のヒットソングのタイトルをコピペするほどにテンパっている。なぜか。こんな夜は、ノン・クリスマスムードなチェーン店の居酒屋がいいなぁと適当に選んだお店が狙い通りにガラガラだったけれど、店員のひとりがボリューム感のあっていない大声でやたと叫ぶし、これまたやたらとダッシュで行き来する様(暇なのに!)にうんざりしているからではない。いや、うんざりはしているけど、途方にはくれていない。ツタヤ武蔵小山店がついに閉店するというお知らせを知ってしまい、そして僕は途方に暮れている▼でもまぁ、仕方がないんですかね。振り返れば、昨年のいま頃のこの原稿でも、祐天寺のツタヤの閉店関連の話題だった。学芸大学店からはじまり、祐天寺店、中目黒店と閉店が続き、そのたびに散歩の距離が延びて、ついには徒歩30分というなかなかの時間をかけての武蔵小山店だったが、ついに……。いまの時代は、渋谷や三茶などの書店も併設しているような大型店舗以外でのレンタル店は厳しいのだろうし、近い将来はリアル店舗でのレンタルというスタイルは配信というものに完全にとって変わられるんでしょうねぇ。となると、DVDはどうなるんだろう? おそらく、リアル店舗がかなりの下支えをしていたであろうジャンルであろうから、なくなっちゃうんだろうか?▼しっかし、なぜにここまで途方に暮れるのだろう?▼そうか。ツタヤは象徴でしかなかったのでした。私ではない。僕にとってである。18歳で上京して以来、レンタルビデオ(やがてのレンタルDVD)ショップというやつは、僕にとっては〝東京〟の象徴だったのでした▼僕が高校生だった頃の田舎にレンタルビデオショップはなかった。あっても活用はしていなかった。ところが、東京はレンタルビデオ、レンタルビデオ、個室ビデオだった。最後のやつはHなやつで本稿とはズレるが、いやズレないな、Hも含めてのレンタルビデオは、それはもう田舎少年だった僕を大人へと誘ってくれて、いまの仕事にも通じるサブカルの先生にもなってくれた。スタンリー・キューブリック、リドリー・スコット、テリー・ギリアム、ジム・ジャームッシュ、仁義なき戦いシリーズ。エトセトラ、エトセトラ……。そんなワンー&オンリーな魅力を放つ映画と出会えて熱狂できたのも、レンタルビデオショップのおかげだった▼大学生になってからはアルバイトでもお世話になった。千歳烏山のそのお店は小さな小さな個人店だったから、それこそツタヤ的な大型店に駆逐されてしまう。その後、劇団時代に住んでいた東中野でもレンタルビデオ店でバイトさせてもらって、ある夜の閉店中のそのお店に強盗が入って、生まれてはじめて鑑識の人に自分の靴型を撮られたりもした▼ライターになってからもそう。ある時期からは自分の企画を通してもらえることが増えて、雑誌やフリーペーパーやカタログや書籍に関われているけれど、まったく食えない駆け出しの頃は、とある天才ラジオパーソナリティに、一風変わった映画紹介の企画を採用してもらうのにも壮絶だった。なにせ、食えていない。ほぼ1日中腹ペコだった。それだけならまだしも、借金王だったのがキツかった。世はグレイゾーン撤廃前。消費者金融ではなく、サラ金大航海時代。取立ても静かに怖かった▼だから、必死だった。おおげさでなく100本近く考えたうちの一本であるその企画は、キャストや映画監督や最新作か否かではなく、たとえば「殴る女」というテーマ性で映画を紹介するというもの。採用された瞬間はうれしかったけれど、隔週だったか月イチだったかの締切ペースにゾッとする。映画は好きだけれど、そこまでのオタクではないから、すぐに引き出しが空っぽになってしまったのだ。その時も助けてくれたのが、レンタルビデオショップの店員さんだった。お名前は失念してしまったけれど、ツタヤ表参道の店員さんに毎回毎回、テーマに沿った作品を紹介してもらって、どれほど助けられたことか。ありがたかった▼こうやって振り返ってみると、ツタヤ武蔵小山店には、さようならじゃなくて、ありがとうと言わなきゃなんですね。15年間ほどの長きにわたり、本当にありがとうございました▼って、ポジティブになれたと思ったら、びっくりです。いま、頼んだ鍋がきたのだけれど、なんと2人前。いや、メニューを見返すとたしかに「2人前から受けたまわります」と書いてはあるけど、こちとら完全なるぼっちで暖簾をくぐっているというのに。ひとこと確認してくれてもいいじゃんとも思いましたが、まいっか。せっかくの聖夜なんで、完食したいと思います。メリークリスマス。そして、よいお年を(唐澤和也)