からの週末20211221(火)
五十肩とこーんにーちはー!

▼フローズンショルダー。海外ではそんな呼ばれ方をするアイツが突然にやってきたのは先週月曜日のことだった。和名、五十肩。月曜日は、ちょっと違和感があるかも?ぐらいのものだったので湿布を貼るなどしてやりすごすも、問題は火曜日の夜。けっこうな力持ちの小人に右肩をずっと殴られているかのような鈍痛に寝ていられなくなって目が覚める。あまりの痛みにバキバキに目が冴えて「五十肩/症状」で検索すると「夜間痛」という言葉があることを知る。字面を見ただけで、夜通し痛くて寝られない予感満載じゃないか。2021年の嫌いな漢字3文字を夜間痛に即決した夜だった▼看板に偽りなし。夜間痛のせいでウトウトしただけでうまく眠られず、睡眠不足のまま迎えた翌水曜日は五十肩の代表的症状が襲ってきた。「衣類が着れない」「洗濯物が干せない」。そりゃそうだ。右肩の痛みから右手が口ぐらいまでの高さしか上がらないんだもの。かろうじてごはんは食べられるけど、整髪剤は届かない。洗濯物だって手が上がらないから、まとめて靴下とかが干せるやつを一回テレビに掛けて高さをさげて、そこに吊るしてから、左手でベランダの物干しにひっかけたりもした▼ところが、木曜日。前日の夕方から飲んだ痛み止めが効いたのか、右手もゆっくりとならばふつうの挙手ができるほどにあげられるようになったではないか。衣類も着れるし、洗濯物も、昨日洗濯しちゃったからもう干すもんがないけども、干すチャンスがあれば干せる。痛みもない。私は五十肩ではなかったのか? ぽいか? 五十肩ぽかっただけなのだろうか?▼そして週末、日曜日の夜。五十肩っぽい私が、まさか同世代のM-1王者を目の当たりにすることになるだなんて、人生はなにが起きるかわからない。まさに、ライフ・イズ・ビューティフルでした▼カラードカープ。いま適当にウェブ辞書で調べた程度なので間違ってるかもだが、和名、錦鯉。ボケのまさのりさんは50歳だという。コンビ結成は相方の渡辺さんですら33歳の時で、まさのりさんは40歳だった。そんな遅咲きにもほどがあるコンビが「50歳の合コン」と「猿を捕まえたい」という2本のネタで第17代M-1王者の称号をかっさらっていった。50歳のまさのりさんは号泣していた。54歳で五十肩っぽい同世代の私は、もらい号泣だった▼かっさらう。この言葉には、個人的なバイアスがかかっている。M-1がはじまった最初の数年間は仕事として同大会を追いかけていたから、特定のコンビの優勝を願うということはなかった。でも、それからずいぶんと時間が流れて仕事でおっかけることもなくなり、そのマイナス面としては芸人さんのことをよく知らない状態になっていたけれど、霜降り明星が優勝したあたりから新しい風にも素直に笑えるようになったことが新鮮だった。ひとりのM-1ファンに正式になれた瞬間であり、あの夜から年末が楽しみになっていった▼さらに今年は優勝を願い応援しているコンビもいた。オズワルドである。ミルクボーイの漫才に爆笑させられた年に、一番気になったのが彼らだった。関西弁漫才ってやっぱし強いなぁという印象がM-1ファンならばあると思うが、オズワルドはしずかな標準語で、でも、強かった。しずかなのに強いって、すごい。個人的にはPOISON GIRLBAND以来の爆笑と感動だった▼そして、2021年。オズワルドの1本目は最高だった。よし、いける! と小さくガッツポーズすると同時に、そわそわ度がマックスまで高まり(親族か!)と自分で自分をツッコむほどであったが、ひとりのM-1ファンとなって3年目の私に抜かりはない。惣菜や鍋やビールなんぞを用意し、M-1観戦史上初となる自分でも採点していたのだった。自己採点でのオズワルドはここまでの最高得点の95点。本物の審査員からも好評価で1位通過でファイナルステージへと駒を進める▼だがしかし、足したら100歳の大台に近い錦鯉は、バケモンかつバカモンだった。そもそもどんな設定なんだよ、「猿を捕まえたい」って(笑)。対照的にオズワルドは彼ららしく凝ったネタを2本目に選ぶ。別の大会で優勝した際のネタをさらにブラッシュアップしたものなのだそう。おもしろかった。おもしろかったけれど『もののけ姫』のパンチラインでいえば「バカには勝てん!」だ。錦鯉にはなんの落ち度もあるはずがなく、そもそもまさのりさんの涙にもらい号泣したぐらいなのだから新王者には拍手喝采なのだが、それでもファンとしては無念だった▼ほんのちょっぴり、取材者モードに戻った瞬間があった。コンビ結成15周年以内というルールからするとラストイヤーとされるハライチのボケの表情である。テレビはリアルでシビアだ。セリフなどなくてもその表情だけで、ある人物の喜怒哀楽が全開で伝わってしまう瞬間がある。ハライチのボケである岩井さんは、敗者復活戦の勝者として舞台に立っていたのに(ふざんけんなよ!)と殺気じみていた、ように見えた。敗者復活戦とはいえ勝ったのにふざけんなよって一般的には意味がわからないけれど、元取材者として想像したのは(準決勝で落としてんじゃねぇよ!)(俺らはおもしろいんだよ!)という芸人としての強烈な自我だったのではないか。テレビはリアルでシビアで、でも、だからこそ感動もする。あの表情を見てしまったからこそ、決勝のハライチのネタに爆笑させられながらも、芸歴15年目で新たなる漫才の型に挑戦してそれを実現してしまうカッコよさに痺れた▼さてさて、オズワルド。M-1に限った話ではなく、勝負事は勝てる時に勝っておかないとかなり厳しくなるもの。阪神タイガースも今年は勝てたし勝たなきゃいけなかった年だから、来年はかなり厳しい戦いになるだろう。オズワルドも然り。でも、だからこそを見たい。もうこれ以上はないというところまで磨き上げた2021年のオズワルドの芸のその先を。かなりの無理ゲーであると素人ながらに想像するけれど、先人がいないわけでもない。まだ私が取材者だった頃、決勝に進むこと9度目でM-1王者となった笑い飯である(唐澤和也)