からの週末20211114(日)
土曜の夜の朝ドラ

▼まさかこんなことになるだなんて。これが沼というやつなのでしょうか。最新作の『カムカムエヴリバディ』を含めて、朝ドラ4連覇達成の予感です▼いや、4連覇という表現は言葉としておかしいか。でも、視聴習慣というものとは違う気がする。たとえば『龍馬伝』ではじめてハマった大河ドラマは、それ以来必ず録画はしているものの最初から最後まで見通したのは『軍師官兵衛』『女城主直虎』『真田丸』『麒麟がくる』ぐらいなもの。その数を調べてみたら『龍馬伝』から数えて12作だったから、12分の5ということになる。打率でいうと我が阪神タイガースの選手はおろか球界を見渡しても存在しないほどのハイアベレージだが、見る・見ない問題でいうと、意外と低い確率だと思う。少なくとも大河ドラマに対する視聴〝習慣〟にはなっていない。なのに、朝ドラは4作連続の予感って。やっぱり、4連覇という言葉づかいで正しい気がしてきた▼『エール!』は生まれ故郷の隣り町が舞台のひとつってだけの理由で見始めたのだった。『おちょやん』は『エール!』がおもしろかったことと、昔からなにかと縁があって好きな街でもある大阪が舞台なのが見続けた理由だった。そして『おかえりモネ』は、『エール!』と『おちょやん』がおもしろかったことと、そのおもしろさがそれぞれに違っていて、かつ、気仙沼漁師カレンダーという仕事でお世話になっている街が舞台のひとつとなれば、見ない理由を探すほうが難しかった▼そして、『カムカムエヴリバディ』。舞台である岡山県に個人的な思い入れはなかった。それでも『エール!』と『おちょやん』と『おかえりモネ』がおもしろかったので、まぁ1週か2週見て、いまいちだったら4連覇をあきらめようと思っていた。つまり、かなり気楽に見始めたのだった。ところがである。なんとである。先週の土曜日の夜のことである▼土曜日という週末の夜に、月曜から金曜までの朝ドラ5話をビール片手に一気見するのが至福の時なのだが、ある人の登場で酒の力の10倍ほどにもテンションが上がってしまう。劇団時代からの師匠が、めちゃくちゃいい役で登場していたのだった。なんなんだ、この流れは。これはもう、終わりまで見るしかない▼その長い歴史を考えれば、3作とちょっとという、ほぼにわかな視聴者なりに感じる一番のことは、朝ドラのなにがすごいって、物語成分のどこかに微かな狂気が潜んでいるということ。私は土曜の夜の朝ドラだが、ふつうは朝の8時からの15分間という〝爽やかさ〟が求められる時間帯だというのに、戦争の悲惨さをきっちりと描写したり(『エール!』)、震災で妻を失った漁師の悲しみを表現させる台詞が「俺は絶対立ち直らねぇ!」(『おかえりモネ』)だったり。4連覇以前の私は、偏見の塊で、朝ドラ=キャピキャピした恋模様を軸に前向きなヒロインの生涯を描くものだと決めつけていたけど、よくよく考えたら『おしん』を放送していた放送枠なのだものなぁ。微かな狂気が潜んでいても、まったくもって不思議じゃない。最新作の『カムカムエヴリバディ』もはじまりは淡い恋物語がメインであったが、早くもその恋に戦争や家柄の違いなどの影がさしはじめている。なにより、とある家族の物語を100年間も描こうとしているコンセプトそのものが、やっぱり微かに狂っていて、そこがおもしろい▼視聴者としても半年間という長い時間をかけて、ひとつの物語と多くの登場人物を追いかけるという行為は、それはそれで狂いのようなものが生じるものなのだなぁとも思う。なんというか、もはや視聴者というより、応援団のようなものだし(あ、これが推しという感覚なのかな?)、個人的には自身の年齢的にも親戚のおっちゃん感覚でさえある。現実と虚構の境界線が曖昧になってしまいがちで、登場人物たちの人生が他人事とは思えない。たとえば『おちょやん』の千代(杉咲花さん)の幸せと哀しみのアップダウンのたんびに、見ているこちらもどれだけギャン泣きしてしまったことか。そんな大量の涙を朝から流した日には仕事になりゃしないわけで、だから私は、土曜の夜に朝ドラを見るのかもしれない(唐澤和也)