からの週末20211017(日)
おもしろいってなんだっけ?
▼今年の『キングオブコント』が、どうにかしてほしいぐらいにおもしろかった。優勝した空気階段はもちろん、蛙亭、ニッポンの社長、男性ブランコ……いや、キリがないな。参加メンバーすべてが、どうにかなっちゃうぐらいにおもしろかった▼と同時に、どうしてこう自分は忘れっぽいのかといまさら思い出したのは、私はコントの劇団出身のライターだったのだった。ひと昔まえに『マンスリーよしもと』という月刊誌の編集&ライターを担当させてもらっていた頃などは「所詮、劇団あがりのしがないライターですから」などと自虐めいた言葉を頻繁に口にしていたらしい。〝らしい〟というぐらいだから自分ではよく覚えていないのだけれど、なぜいまもそのことを明確に覚えているのかといえば、当時の編集長が知り合ってしばらくたってから、こんなやりとりで褒めてくれてからだ▼「唐澤さんは、よく劇団あがりって言いはりますけど、実は誇りにしてる感じがいいですよね」「そうですか? 所詮、ですけどね」「いや、本当に自虐的にマイナスな過去だと思ってはるひとは違う言い方をするもんです」「どういうふうに?」「劇団あがりじゃのうて、劇団崩れ、です」▼〝じゃのうて〟ってなんか変だ。だからって正解がわからず、関西弁がうまく再現できないのが悔しいが、その人は女性編集長で、まあるくやわらかい関西弁で、とにかくお笑いが大好きな昔気質な吉本〝興業〟な人だった。そういう人のそういう言葉だったからうれしくていまでも覚えているのだが、じゃあ、なぜいまさら自分がコントの劇団あがりのライターであったことを思い出したのかといえば、どうも、M-1という漫才コンテストのおもしろさの印象度が強すぎて『キングオブコント』を一段下にみていたような気がしたからだ。いや、気がしたじゃなくて、はっきりとそうだ▼審査員長の松本(人志)さんが語っていたように、審査員の刷新なども含めて今回の『キングオブコント』は格が一段あがったらしいから、2021年がすごいとも言える。でも、自分がお笑いの劇団の裏方出身で、しかもやっていたのがコントで、シティボーイズさんやイッセイ尾形さんのライブビデオ(当時はビデオ!)を夢中になって見ていたことをケロッとわすれ、『マイク一本、一千万円』というM-1のノンフィクション本を書かせてもらったことを経緯に、しれっと漫才ファンを気取ってやがったのがおもしろくない。というか、我ながら腹だたしい。あのノンフィクション本の縦軸は「私は、漫才について何も知らなかったのだ」だったというのに▼そう考えると、あのノンフィクション本の取材は2003年のM-1だったから(優勝はフットボールアワー!)、以来20年近く少なくともM-1での漫才はみてきたことになる。でも、漫才の妙、みたいなものはいまだにいまひとつわかっていない。もちろん、好みみたいなものはあって、2019年のほうのオズワルドの漫才は相当に好きだった。2021年は前評判が高すぎて、いちファンとして逆に心配しているけれど、いわゆる、しゃべくり漫才とくくられるものが好きなのだろう。でも、だからといって論争にまでなったマジカルラブリーの漫才を否定する気などさらさらないし、なんの権力もないけれど彼らの優勝になんの異論もない。マイクの前で(基本的には)コンビがおもしろいことを言う。あるいは、言いながら、する。それが漫才の定義でいいと思う▼ところがコントには、主に関西人などが漫才の定義を超えた自分なりの美学のようなものを持っているレベルに近しいものが、私にもある。それは、哀しみの裏側にある笑い、だ▼(以後、ネタバレを含む)▼だって、とあるSM倶楽部の一室でブリーフ1丁でしばられている客を同じくブリーフ1丁で助けに来たのが消防士で、実は、助けられたのが警察官だなんてことがもしも現実社会に起こったのなら哀しすぎる。でも、コント師である空気階段は、その哀しい設定を必死に救助活動をするバディとしてリアルに演じるからおもしろい。小ボケなどはなく、とにかく終始必死だ、ブリーフ一丁なのに。哀しみが裏返って笑いになるのか、笑いの裏側に哀しみがあるのか。どっちでもいいんだけれど、そういうコントが私は大好きだ▼というわけで、ことのほか筆が進んだ今回の週末。哀しみの裏側にある笑いが好きだということに嘘はないけれど、2003年のフットボールアワーのネタのひとつが「SMタクシー」でその漫才にも爆笑させられたことを思い出した。もっともらしく〝哀しみの裏側に〟とかなんとか語ってしまったが、実はシンプルにSMネタが好きなだけなのだろうか? そんな疑問はさておき、今後も書く内容に困ったら「おもしろいってなんだっけ?2」などと続編でいこうと思う。逆にいえば、続編が登場したら「あ、こいつは今週ネタがないんだな」と、やさしい気持ちで気楽に読んでいただければ幸いです(唐澤和也)