からの週末20210612(土)
眠いんで帰っていいですか?(夕方の4時半)

▼まるで笑えない冗談のように、気がつけば、2021年の上半期が終わろうとしている。約180日のうちのほとんどがKKJS(緊急事態宣言)だった気さえする。なんてこった、です。でもだからこそ、この半年間でテンションがあがった瞬間 (以下、TAS)を振り返ってみようと思う。これといってないような気もするけれど、先週に引き続き、逆に、です▼ところが、すぐに振り返れた。2021年上半期最大のTASは、我が阪神タイガースのゴールデンルーキー、いや、もはや球界を代表するゴールデンルーキー・佐藤輝明選手の本塁打3連発しかないでしょう。いやはやすごかった。2年ぶりの開催となった交流戦での5月28日、西武ライオンズ戦。2回に今季11号、6回に12号、そして9回には試合をひっくり返す13号。陳腐な表現だけど、まるで漫画みたいだった▼漫画みたいといえば、今季から日本球界に復帰した田中将大投手の2013年もすごかった。なんと、24勝無敗。日本一が決定する場面でリリーフとして登板し見事に胴上げ投手にもなっている。漫画だったらできすぎたお話で、ちょっとひいたかもしれない。そんな漫画じみた実在の野球選手ふたりが、本日の交流戦で対戦するというのもTASきわまりない▼してみるに、この半年はもとよりコロナ禍に見舞われてからこっち、エンターテインメントの力ってやつに本当に救われ続けてきたのだなぁとありがたくなる。ジャンル分けは人によって異なるかもだが、スポーツも娯楽のひとつともくくれるので、個人的にはエンタメだ。エンタメが好きでよかった。野球好きでよかった。阪神ファンでよかった。漫画や映画好きでよかった。小説もおもしろいし、いままでは避けていた経済にまつわる書物でも書き手にサービス精神があればエンタメだと知れた。以前はあまり注目していなかったテレビドラマにも傑作があることを発見できたのもTASだった▼2021年の上半期に話を戻すと、テレビドラマでは、なんといっても『おちょやん』だったがすでに何度か書いてきたので、ここ最近の静かなTASドラマについて。すなわち『コントが始まる』である▼実は第1話は見逃していた。というかあまり興味がなかった。なにせコロナ禍以降にテレビドラマにも傑作があることを知ったオールドルーキー的視聴者なもので、同ドラマの脚本家である金子茂樹氏が『俺の話は長い』という傑作を生んでいる実力者ということを申し訳ないけれど知らなかった。ところが、ブラックマヨネーズの吉田さんらプロの芸人が称賛していることを知り、俄然興味がわく。配信サイトで1話をチェックしてから毎週土曜日のお楽しみとなる。これがおもしろかった。静かなTASドラマと書いたのは、静かに泣けるということ。『コントが始まる』は、マクベスという3人組と彼らに関わるプロファン、その妹、メンバーの彼女、事務所のマネージャーなどとの関係性を丁寧かつコミカルに描いていく。さらに、毎回の冒頭にマクベスのコントがあり、ドラマ本編があって、最後にコントのオチがあって、実はそのコントがドラマの伏線回収をしているという構成の妙も話題だった。私自身、初期はその構成の妙を楽しめていたが、4話目ぐらいでちょっと飽きてしまう。構成の妙に囚われすぎていて、コント=伏線回収したいがための伏線=コントそのものはおもしろくないという負のループを感じたからだ。ところが、見続けるうちに自分の見方が狭いことに気づかされる。(それこそ)逆だと。『コントが始まる』は、マクベスが解散するという、終わりのはじまりを描くドラマ。つまり、マクベスはお笑いの才能がない。ならば、コントはつまらなくて当然で、むしろつまらないことにリアリティと切なさがある。そして、お笑いの才能がないことと、彼らの人間的魅力はまったくもって別の話でもある。マクベスの3人は10年間という時間を捧げ、彼らなりに努力を続けてきた。だがしかし、報われなかった。でもそれは、お笑いの世界が絶対的な才能が左右するというシビアさを描いているリアリティがあるとも言えるわけで、元お笑いのコント劇団の裏方で己の才能のなさを痛感したことのある身としては、やっぱり静かに泣いてしまう。「すべての報われなかった努力へ花束を」というパンチラインは、映画『BLUE/ブルー』の監督・吉田恵輔氏がこの作品に込めた思いだそうだが、個人的には、同様の言葉をマクベスの3人にも贈りたい▼さてさて、上半期のTASあれこれは、エンタメものが多かったのだが、実生活でのTASもあった。今回の見出しのパンチラインは、うちのスタッフである山岡の6年前の言葉だ。夕方の6時ぐらいだったと思う。「眠いんで帰っていいですか?」と突然言われ絶句、怒りの感情としてTASって激怒したものだった。あれから6年。彼女は成長しました。2021年5月のある日のことだったと思う。「順調なんで帰っていいですか?」「ん? 今月のうちの定時は19時だけどまだ夕方の4時半だよね?」「いや、眠いんで」。言葉は違えど、意味としては6年前と同じだった。そして、6年前ほどではないがTASだった。でも、怒ではなく笑の感情だったのはなぜだろう。結果的に彼女は変わっていないし、むしろ眠くなる時間が早くなっているけれど、その日以外の彼女の仕事っぷりが6年前より確実に成長していることが大きいように思う。その日の夕方4時半には「それはダメでしょ」ともっともらしいことを言ったが、6年前と変わらぬバカ正直さに、内心はなんだったら飲みに行きたいぐらい笑ってしまいそうだった。そうなのだ。なんだったら飲みに行ける日が一日でも早く戻ることを願いつつ、今日のところは佐藤輝明対田中将大の漫画みたいな対決を観戦してTASりたいと思います(唐澤和也)