からの週末20210327(土)
お寿司か藤浪晋太郎か、それが問題だ。

▼球春である。昨年のいま頃を振り返るとわかりやすいのだけれど、今年は選抜高校野球ががっつり開催されているし、プロ野球の開幕も昨日3月26日だった。ひるがえって昨年は、選抜高校野球は開催されず、プロ野球の開幕は6月19日と大幅に延期されてしまう。私はスケジュール帳もアナログ派で、A4サイズのでっかいノート型のものを長年使っているのだが、昨年の4月7日の緊急事態宣言前後で大阪出張がキャンセルとなって以降、そのスケジュール帳の予定欄は、漂白剤もビックリの白さだった。たまーにZOOM会議と書かれている程度で、A4サイズの大きさの意味が一切なかった。あれから1年。球春である。感慨深い▼そんな感慨深いプロ野球の開幕戦。私の愛する阪神タイガースは見事に、それこそ昨年の開幕戦で対巨人戦3連敗と無残な結果と比べればそれはもう見事に、開幕戦勝利をもぎ取った。しかも、矢野監督がチームの勝利とは別の賭けに勝ったともいえる大きな1勝だったのです。以後、プロ野球に興味がない人にはなんのことやらで申し訳ないのでせめて〝ですます調〟でお届けします▼阪神ファンの藤浪晋太郎への気持ちをアイドル業界でたとえると今年の芥川賞『推し、燃ゆ』みたいな感じでしょうか。〝推しが炎上した。ままならない人生を引きずり、祈るように推しを推す。そんなある日、推しがファンを殴った〟という芥川賞受賞作ではないですが、藤浪晋太郎という選手は阪神ファンの誰もが〝推し〟ていた逸材で、誰もがガッカリさせられていた存在なのです。身長197センチ。そんな恵まれたカラダを活かし、高校卒業後のプロ入り1年目(ってことは19歳ですよ!)でふた桁の10勝をあげます。ちなみに、セ・リーグで高卒新人がふた桁勝利をあげたのは、1967年の江夏豊さん以来の快挙でした。そんな逸材がここ数年、大スランプとなってしまう。2017年3勝、2018年5勝、そして2019年にはついに0勝。勝ち星なし。ゼロ。ナッシング。藤浪選手本人も彼を推している阪神ファンにとってもとほほな数年間でした▼ところが、昨年、コロナ禍におけるチーム事情で、それまでの先発投手から中継ぎへと配置展開があったのですが、これが当たります。阪神史上最速の162キロを記録するなど、復活と言ってしまうと我々ファンの期待値からするとちょっと違うのですが、復活の予感がぷんぷんしていたのです▼そして、今年。阪神には西勇輝投手というエースがおり、開幕投手は彼で決まりと思われていたのですが、西投手が体調を崩します。そこで、矢野監督は賭けに出たのです。今年の開幕投手は藤浪晋太郎に任せると。藤浪も「不細工でもいいから勝ちたい」と、それまでの取り繕ったようなコメントではなく、まっすぐに監督の思いに答えようとする言葉を口にします。ファンからすると〝そうそうそれ!がんばれ、晋太郎!〟と胸を熱くしたものでした。結果、開幕戦の藤浪の投球は〝粘る〟という表現がぴったりのようで〝圧巻〟でも〝復活〟でもなかったようですが、それでもチームが勝ったというのがでかいです。次の藤浪の登板と阪神の今後に超期待なのであります▼さて〝ですます調〟から〝である調〟に戻すと、ということはいつもの他愛もない話なのだけれど、そんなプロ野球開幕戦を前に個人的な戦いも繰り広げられていた▼30年以上の友人にして阪神ファンとしての師匠であるN村くんという男がいる。筋金入りの阪神ファンとは彼のことで、甲子園には観戦に行けないっていうんで、ヤクルト・スワローズのファンクラブに入り、神宮球場で開催される阪神戦のチケットを購入できる確率をあげようとしているほど。私が神宮球場や東京ドームで阪神戦を見られているのは、すべてN村くんのおかげだ。そんなN村くんは、昨日3月26日の開幕戦チケットの争奪戦にももちろんヤクルトファンとして参戦するも願い叶わず。それでもあきらめず「追加販売に賭けるから予定あけといてねー」と言われていたのです▼再度〝ですます調〟に戻したのはプロ野球に興味がない人のためにというよりも、N村くんに申し訳ないことをしていたから。LINEってやつは記録が残って怖いですね。いま、さかのぼってみると、3月14日には「予定あけといてねー」と言われ、「了解」あるいは「ありがとう」がわりに、おっさんが拍手している能天気なスタンプを返している私。なのに、3月22日ですよ。能天気な拍手をすっかり忘れて仕事仲間との食事の約束を交わしていたのです。そうです、ダブルブッキングです。しかも、お寿司です。そうとは知らないN村くんのLINEは、試合前日の3月25日木曜日の早朝6時41分にこう続きます。「ラストチャレンジが6時だから、今夜6時半くらいに、最終連絡するね」。能天気なおっさん拍手スタンプを思い出した私は、こう願いました。「当たるな!」「外れろ!」と▼結果、私はこの賭けに勝ったわけですが、もし、N村くんが当選していたらどうしてたんでしょ? お寿司か藤浪晋太郎か、それが問題だ、です。そんなたらればを想像していたら、N村くんから新たなLINEが届きました。「昨日の神宮、めちゃくちゃ寒そうだったから、取れなくてよかった。←負け惜しみ」。いろんな意味で、ごめん、N村くん。今度の阪神戦観戦でビールをおごらせてください(唐澤和也)