からの週末20210305(金)
問題。焼き鳥屋で惨事が! どんな惨事?

▼サボるなという警告だったのだろうか。〝三河揚げ〟という宣伝文句が気になり、ひとりでふらりと入った焼き鳥屋で突然に停電となった。今週月曜日のど平日のことだ。ちなみに、近隣のお店は大丈夫だったので、その焼き鳥屋だけのトラブルだった。暖簾をくぐったのは、夕方の4時半。そうです。サボりたかったのです。珍しく想定よりも早く締め切りものが書けちゃったのと、最近小忙しくてなんだかんだと土日も働いてたもんなぁと。そこに地元の地域名が含まれている三河揚げという、でもしかしはじめて目にする4文字。なんだそれと。気になるじゃんと。三河揚げなる食べ物名にサボりの背中を押してもらいつつ、ところが突然の停電だった▼とはいえ「はい、いまから停電ですよー」なんてことは訓練以外にはないと思われるので停電はいつだって突然なのだけれど、突然に焼き鳥屋が真っ暗になるのはなかなかのインパクトがある。ちょうど提供されたばかりのぼんじりも真っ暗闇のなかでは真っ黒に見える。店に入った夕方4時半頃には私のほかにカウンターにひとり客×2であったが、突然の停電に見舞われた6時すぎにそこにいたのは、私ひとり。だが、買い換えたばかりのスマホのライトをつければさしたる支障もなく、しいて言えば、停電前に読んでいた『ゴールデンカムイ』第3巻を読み続けるのはさすがにあきらめたぐらいなもの。となると、一番のパニックはふたりの店員さんだった▼ご存知の通り、いまの東京は夜8時にお店を閉めなきゃなので、そのお店のオープン時間は早いらしく、しかもけっこうな人気店のようで、停電前から新規のお客さんが何組か訪れ、それぞれの理由で入店しなかったり、やんわりと店側がお断りしていたりもした。「1階は全席禁煙、2階は加熱式のタバコのみとなりますが、よろしいですか?」「焼き物を20分ほどお待たせしちゃいますが、よろしいですか?」などなどなど。その間の私はといえば(地元の東三河じゃ三河揚げなんてものを食べたことないけど、うめぇなこれ!『ゴールデンカムイ』で覚えたアイヌの人の単語でいうと、ヒンナ! だな)などと人生初三河揚げ堪能中だった。週のはじめの月曜日という平日の、しかも、夕方4時半からのひとり飲みという背徳感と、しばらく忘れてたけどこうゆうのがフリーランスの幸せじゃんという多幸感にひたりまくっていた。背徳感と多幸感の絶妙なブレンド。そこに停電という名のスパイス。ちょうどそのタイミングで訪れた2人組に対して店の人は「停電でぼんじりも真っ黒に見えますけど、よろしいですか?」とはならず「すみません、停電なんです!」と簡潔な言葉でお断りしていた▼焼き鳥屋で停電になるとどうなっちゃうのか。しめに予定していた、そぼろご飯は無理とのことだった。なぜ無理なのかは絶賛パニック中の店員さんに悪くて聞けなかったけれど、ならばと麺料理に変更してお会計。すると、10%の割引きだった。「ご迷惑おかけしましたので」とお店のお兄さん。さらに、停電中のためにレジが開かずに細かい小銭が手持ちになかったのだろう。本当は280円とかのお釣りだったのだが、こちらが得する金額である500円玉ががっつりと手渡されたのだった▼逆にいろいろありがとうございますと思い「貴重な体験をどうも」と言ってはみたけれど、店員さんはブレーカーをいじってみたり、電力会社に電話したりとてんやわんやで聞こえちゃいなかった▼さてさて、この停電をサボるなという警告かもとしたのはシャレのようなものだとして、フリーランスの人は誰しも〝いかに休むか?〟を考えるのではなかろうか。休むのも仕事だとか、いやいや働いた分だけ稼げるのだから休みなんていらないだとか、いやいやいやインプットも大切だからまわりとあわせて土日を休みにするだとかの試行錯誤を繰り返したりなんかして。あれ? って書いていてイマイチ自信がなくなってきた。フリーランスの人間でも人によるのかもしれなくて〝いかに休むか?〟なんて考えない人もいる気がする。実際、若い頃の自分なんて、いまのように常駐のスタッフもいないもんだから誰に気兼ねするのでもなく、休みたい時にふらっと休むというフリーランスの鏡のような生活ぶりだったのだから。そういう意味では、三河揚げからのひとり焼き鳥という突然のサボり、でもしかし突然の停電という月曜日は、なんだかおもしろかった▼この週末は久しぶりの連休というやつを味わおうと思う。とくに予定は立てていないが、なぜだかいま思い浮かんだのは、昨春以来の自炊ブームで覚えた数少ないメニューである山芋たっぷりの手作りお好み焼きとビールという絵だった。ヒンナかもしれない。夜になっても停電はしませんように(唐澤和也)