からの週末20210219(金)
輪転機の音を鳴らせ!

▼先週の気仙沼漁師カレンダー撮影&取材ツアーの時からずっと〝目の前の輪転機の音を鳴らせ〟という言葉が、それこそ頭の中で鳴っている。どうやら、一瞬の自分ブームではなく相当に心に残っているパンチラインだと思われるが、きっかけは知人が推していたnoteのとある記事だった▼書き手の工藤太一さんは印刷会社の二代目で「36歳で印刷会社の社長になった僕が、減り続ける売上をなんとか立て直した話」という記事のタイトルだった。出版業界の端っこで生きてる者として、このタイトルにそそられた。たいがいの出版業界まわりの記事といえば、なんとかいう雑誌が廃刊だとか、出版業界の売上が減ったとかの後ろ向きのニュースが多いなか〝立て直した話〟というのがいい。工藤さんがどうやって立て直したかは実際の記事を読んでいただくとして〝目の前の輪転機の音を鳴らせ〟である▼ざっくりと説明させていただくと、工藤さんが会社を立て直す前にはそりゃあ挫折もあったと。でも、あるアイデアが結果的に会社を救う。じゃあ、そんな転機となるアイデアが生まれたきっかけがなんだったかというと輪転機だったというわけ。でもなぜ輪転機だったのか。実は、会社がピンチの時の工藤さんは、印刷業界の今後を不安視していたそうだ。でもふとした時に目の前に印刷機があることに気づき「この印刷機が回るたびに、会社は儲かっていたんだな」と思う。印刷業界というおっきなことから目の前の印刷機というちっちゃなことへのシフト。決してドラマチックなきっかけではなく、ふとしたこの心の動きが会社を救うアイデアを生み出すきっかけになったということにグッとくる▼グッとくるぐらいだから私的には激しく共感したわけだが、冒頭で記した気仙沼ツアーなんてまさにそうだった。あの出来事から10年という節目を迎える2021年なのだから少しでも東北のために……なんて大きな目標は言葉としては美しいけれど、逆説的には、言葉が美して大きいからこそ具体的な行動がフリーズしてしまう。もちろん、大きくて美しい言葉だからこそ動ける人もいるだろうが、どうやら私はそういうタイプじゃない。私のできることは、ライターとして目の前の漁師さんの言葉を喜怒哀楽全部ひっくるめて真摯に受け止めること。漁師さんは寡黙な方もいるから、まさに〝目の前の輪転機の音を鳴らせ〟=漁師さんにしゃべってもらえ!だ。それが結果として、少しでも東北や気仙沼の役に立ったらこんなにうれしいこともない▼さて、である。文章の校正能力が高い人ならばお気づきのように、原稿を正確に書くという意味において、ここまでの文章はなかなかのミスをしでかしている。そうです。工藤さんのオリジナルの文章では、輪転機じゃなくて印刷機なのだ。ってことに、この原稿を書くまで気づかぬほど、輪転機が原文ママだと思い込んでいた。いやはや、引用させていただく以上はと原文を確認してよかったぁとヒヤリとしつつ、俺ってばそういうところが本当にあるよなぁとも思う。輪転機か印刷機でいえば、印刷のプロである工藤さんが選ばれたほうの単語がもちろん正解に決まっている。なぜなら、輪転機は出版業界以外の人にはなじみのない単語であるかもしれないが、印刷機は視覚的に意味がわかる言葉だから、おそらくは多くの人に読んでもらえるよう書いたであろう文章にはそちらのほうが適任なのだ▼でも、その適任ポイントこそが私の思い込みにつながっていて、出版業界の端っこで生きる者だからこそ工藤さんの文章にグッときた瞬間に、頭の中でガシャンガシャンと輪転機がまわっているというイメージが勝手に浮かんじゃっているのだ▼というわけで、今後も自分の好きなパンチラインは原文や元ネタを再確認せねばと気持ちを新たにしつつ、いままさに鳴らさなきゃいけない目の前に迫った輪転機は、この日曜日のインタビューだったりする。テーマは、日常。東北の役に立ちたいという言葉を〝美しい〟〝大きい〟とすると、日常は〝広い〟。年齢なのか、コロナ禍だからなのか、はたまたその両方からなのか、その人が口にする日常の大切さやおもしろさにいままでは若干ピンときてなかった気がするけれど、いまならばにじり寄れる予感がある。さてさて、鳴るや、鳴らざるや。今回の眼前の輪転機の名は笑福亭鶴瓶という(唐澤和也)