からの週末20210206(土)
メモの記憶が行方不明です
▼〝メモの記憶が行方不明〟▼これは3日ほど前にスマホのメモアプリにメモったメモだ。すでにメモメモうるさいが、ご多聞にもれず今回のテーマはメモ。仕事柄なのか常にメモはとるものの読み返すと意味がわかんなくて、それは映画の内容を忘れがちなのと同じ現象で、でも映画は趣味だからまぁいいけどメモは仕事に直結しているんだから、この際参考になる本でも買って勉強し直したほうがいいのではないか、というざっくりな内容をメモった時には考えていた▼というわけで、この1年間のメモを振り返ってみたら、ところがなのである。意味がわからないメモがほとんどなく、むしろなぜ、そのメモをとったのかを自分でも意外なほどちゃんと覚えていたのだったのだった▼たとえば、昨年4月29日のメモ〝今週の四文字熟語=木村拓哉〟は、それまで苦手だったキムタク様のすごさにいまさらにもほどがあるけれど気づけた興奮のメモだし、昨年10月17日のメモ〝ワンピース、60巻まで読んでるぞ〟は、次のレンタルの時には61巻からだからねーという自分で自分へのアドバイスだ。ほかにも〝ゴトクっておいしいの?〟とか〝唇に歌を。家族にキャンプを〟などはその時々の企画や特集タイトルなどの思いつきで、後者のほうはちょっと自分に酔っている感がお恥ずかしいけれど、なぜそのメモをとっておきたかったかの背景や理由をちゃんと覚えていた▼ちなみに、昨年の春先から最多登場のメモワードは〝持続化給付金〟の3回。いま振り返るとどんだけピンチだったんだよとも思うが、それだけ切実なメモであったことは覚えている。いずれにせよ、振り返った記憶の多くは、行方不明ではなかった▼もちろん、完全に記憶が行方不明だったメモもなかにはある。たとえば〝捨て耳〟。メモには落語隠語とあったが、なにきっかけだったのかは思い出せない。ただまぁ、覚えときたいのはフレーズだったと思われるので、捨て耳を調べ直すと、捨て目捨て耳とセットで使うことも多いようで「本筋とは関係ないようなことでも目の片隅、耳の片隅に留めておくこと」のようだ▼別の日のメモには〝エンピンガーオ〟とある。なんなんだ、ちょっと強そうな動物のようなフレーズは。こちらもまったくもって記憶が行方不明なので、検索してみるとスペイン語で「絶品」などを意味する言葉らしい。なるほど。絶品で記憶が行方不明先から無事に帰宅した。映画『シェフ 三ツ星フードトラックはじめました』を見た頃のメモで、主人公のシェフが作るキューバサンドがそれはもうおいしそうで、劇中ではシェフ仲間と息子と3人で分けて試食するのだが、その際に「わーお、絶品!」みたいな字幕があって、その絶品にエンピンガーオとルビ(ふりがな)が振られ、かつ、そのあとのセリフが「エンピンガーオ」だった。……と、映画の記憶は行方不明率が高すぎて不安なので、いま、その場面を確認してみました▼ところで、メモというものの大切さを教えてくれたのは、鶴瓶さんだ。鶴瓶さんが日々残しているメモの量は尋常じゃない。現在はさらにアップデートされているかもだが、10年近く前は「なぜ?」と「エピソード」の2冊のA5ノートがあり、たとえば〝女装家〟などの言葉がメモされているのを見せてもらったことがある。本人以外わからない暗号のようなメモ。そして、その暗号を毎春恒例の単独ライブ「鶴瓶噺」の時期にセレクトし(その年は652項目もあった!)、その1年間で出会った人や出来事を舞台の上で、生き直させる。スポットライトを浴びて話しているうちに昔の噺を思い出したり、観客の笑いの導きによって、どんどんどんどんと、いや、くねくねくねくねと横道にもそれながらライブは征く▼〝ライブは征く〟ってなんかいいかも。ライブは進むとかライブは膨らむではなく、鶴瓶噺はライブは征く、な気がする(←メモ)▼つまり、鶴瓶噺の命綱はメモであると言えるが、なぜ鶴瓶さんは、あの暗号のようなメモだけで忘れないのだろうか?▼実は、この問いには、今回の原稿を書いてみての仮説がある。鶴瓶さんは1年に1回の鶴瓶噺の前にも、日々のメモからテレビや落語の枕(本ネタに入る前の小噺やトーク)などで喋ることで忘れなくなるのではないか。私の場合でなら、この原稿で〝捨て耳〟のことを書いたことで、今後はこの言葉について忘れないであろう感触がある。いや、そうでもないかもしれない。だって、エンピンガーオはちょっと自信がないもんなぁ。だから、メモを見返すということ。おそらく、メモをどのようにとるかということよりも、そのメモを何度読み返すかと、そのメモを活用する(鶴瓶さんなら喋る、私ならば書く)ことのほうが重要なのかもしれない▼なーんてことを今度の鶴瓶さんへのインタビューで聞いてみたい(←メモ)。って、今回の←メモが行方不明にならぬよう、取材前に読み直せたなら、エンピンガーオなインタビューができるかもしれない(唐澤和也)