からの週末20210130(土)
デジタル音痴の冒険
▼いやはや、タイムスリップだ。数年ぶりにアイフォンの7から12への機種変更をしてみたのだが隔世の感があるとはこのことです▼デジタルにもガジェットにも興味があるタイプではないので、絶対12に変えたかったわけでは全然ない。むしろ、魔がさしたとしか言いようがないのだけれど、まずはKKJSによる適度な暇時間があったこと。そして、契約キャリアから「特別割引が1月末までですよ〜」との悪魔のささやきがあったこと。さらに、大好きなプロ野球情報が楽しめるアプリが現状のOSには対応しなくなったことがトドメだった。いや、だったらOSのバージョンをあげればいいじゃんと音痴じゃない人は言うだろう。だが、デジタル音痴をナメてはいけない。デジタルが苦手とか、デジタル下手とかではなくて、私は生粋のデジタル音痴だ。レベルが違う。若者ふうに言うとレベチだ。苦手や下手と音痴は断じて違う、レベチであるということをどう言えばわかってもらえるのか▼かつて、アメリカを旅した時にシカゴ・カブスというチームのホーム球場で、いかにもギャング然としたいかつい黒人にからまれてスニーカーを靴磨きされ(本当は革靴を磨く代わりに小銭をたかりたかったのだろう)手持ちの小銭(2000円ぐらいだったと思う。いまはわからないが当時のその球場の近くは治安が悪いと聞いていたので本当に小銭しか持っていなかった)をカツアゲされ、お礼にラップしてやると無理やり聞かされた。無理やりではあったが内心ワクワクしていた。というのも、当時から日本語ラップのファンではあったがUSものはほとんど聞いていなかったので(これが人生初体験の本場もんのラップじゃん!)と胸躍らせていたわけだった▼ところがこれがまぁラップ音痴だった。下手とくくれる範疇を度肝を抜くスケールで超えていた。こちらが英語力がないとかそういうのじゃなくて「ニガー!」という単語しか聞こえないし、つまり言葉に困ると「ニガー!」だし、おそらく本人も自覚しているのか自信のなさからどんどん声が小さくなる。機械に頼らない見事なフェイドアウトで即興ラップを終えると、じゃ!とバツが悪そうに人混みに消えていった。いかつくてあんなに怖かったはずなのに、丸まった背中が小さかった。彼はなぜラップ音痴なのにフリースタイルに挑戦したのか。たぶん、魔がさしたのだと思う▼ひるがえるに、デジタル音痴とはいえ、いきなり機種変更をするのではなくOSのバージョンを上げようと試みてはいた。けれども、何度やってもバージョンアップができず、その度に出てくるテキストにうんざりして、やがて「あなたにはもう無理です!」と読めた気がした瞬間に悪魔のささやきほかになびいてしまったというわけだ▼タイムスリップという名の冒険は、驚きのオンパレードだった。7にはあったホームボタンがない! アプリとかメールとか、どうやっていろいろ開くというのか。それでまたなんだこのフェイスIDって! どうやら、7にもあった指紋認識の時は本人だつって触ってんのに登録以来一度もロック解除をしてくんなかったやつの顔版らしい。ま、でも、とにかく適度な暇時間があるから、ホームボタンのかわりの使い方を検索し、フェイスIDの登録にもトライしてみた。円が出る。その中に顔を入れる。ゆっくり頭を回せと言われる。回す。矢印の方向にと言われる。(え? どういうこと?)と一瞬思う。あぁ、そういうことねと自分なりに理解してそうすると「円からはみ出さないでください」とダメだしされる。イラっとする。それでも頭を回すがイラッとした分、余計に円からはみ出す。怒られる。さらにイラっとした▼でもなぜか登録はできて、これがまぁ便利だ。人によっては、いまのご時世的にマスクを外さなき認証できないのがめんどくさいとかあるみたいだが、個人的には便利なことこのうえなし。なにせ、指紋認証は、ただの一度もロックを解除してもらえなかったから。それが、今回はすっと認証してもらえるだけでなく、誰かから携帯がかかってきて呼び出し音が鳴っても、顔が認証されると気づいていることにアイフォンが気づいてくれて、音が小さくなってもくれる。すごい▼写真もすごい、気がする。なにかを読めば12の写真機能のすごさを解説してくれていると思うけれど一切読んでいないので主観に頼ると、なんだか夜景もキレイに撮れる気がする。もしかしたら、12じゃなくても10とかでもこうだったのかもだが、7から12のタイムトラベラーとしては、機種変更してよかった、ちょっとデジタルもおもしろいのかもと心から思える初日の夜だった▼だが、2日目に地獄へと落とされる。22個のアプリを最新のものにアップデートしていたのだが、LINEを開こうとすると、本人確認が必要だという。オッケーオッケー、なにせ本人ですからと携帯の番号を入れるとショートメールに暗証番号的なものが届く。打ち込む。これにて終了と思いきや、いままで使っていたスマホのLINEにさらに暗証番号的なものが届くのでそれを打ち込めという。いや、無理っすよ。昨夜のうちにとっとと初期化しちゃいましたから。焦る。まさにわらをもすがる思いでネット検索してみると、フェイスブックで連携すればいけるかもなどいくつかの方法を教えてくれる。すべて試す。すべからくダメ、初期化するしかないという。とほほである▼なるほどなるほど、無知だった自分が悪いのねと納得しようと思うが、検索して出てきたネットの文字だけだではどうにもこうにも踏ん切りがつかない。初期化へと進むボタンが押せない。デジタル音痴あるあるだと思うのだが、こんな時、デジタル音痴人は、肉の声、すなわち肉声で「あきらめろ!」と言ってもらいたいのだ▼だが、LINEは電話での問い合わせをやっていない。ダメ元でアップルケアに電話するも「ええ、ええ、お気持ちは察します。でもそこはひとつLINEへのお問い合わせでお願いします」と落語に出てくる調子のいい人みたいな感じでいなされる。そりゃそうだ。じゃあってんで、次なる肉の声を求めてデジタルに詳しそうな後輩に電話してみるも(いまどきそんな失敗する人がいるなんて)という衝撃が大きすぎて言葉に詰まっている。それでも、なんとか解決しようとしてくれている懸命さが逆に切なくてお礼を言って電話を切った▼繰り返すが、すでに99%はあきらめている。ただ、トドメを刺してほしいだけなのだ。さらに検索してみると、どうやらLINEにはメールで問い合わせもできるらしい。いまの自分の症状が書き込めず、だいたいの感じで選択して、送ってみる。びっくりするぐらの速度で返事が来る。今度のやつには書き込みが可能だったので詳細、別名自分の体たらくを書き込んで相談してみる。ちょっとの間で返事がきた。読む。すると、こちらのミスだというのに申し訳なさそうに謝ってくれたうえで「他にLINEを引き継ぐ方法はありません」。それです! お待ちしていた言葉はそれです! ありがとう、LINEの担当の方!▼というわけで、新しいLINEのアカウントを作成し現在に至っているが、さすがはデジタル音痴だった。おそらくデジタル達人ならば、新アカウントへの移行の連絡の数が膨大だろうが(ま、達人が今回の音痴がしでかしたのと同様の失敗をするとは思えないけれど、まぁ可能性として)、10分ぐらいの連絡で、ま、これはこれでなんとかなるなという状況に復活できちゃった(うまく連絡できていない方、ごめんなさい)。さらに、よくわかんないままになにかの機能をオンにしていたら何人かの方が何年かぶりに連絡をくれて旧交をあたためる幸運にも恵まれたりして。いやはや、デジタル音痴とその冒険も捨てたもんじゃないのかもと思う今日この頃です(唐澤和也)