からの週末20210115(金)
ポンコツな記憶力と魔法の選択
▼「自分が何者であるかは能力が決めるのではない。選択が決めるのだ」▼てな感じのパンチラインを口にしたのは、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアだった。やけに長い名前の主は、『ハリー・ポッター』シリーズの魔法学校・ホグワーツの校長先生。名前も長いがヒゲも長い御仁だ。ダンブルドアの言葉のなにがパンチラインって、能力と比較するものが、選択っていうのがいい。ファンタジーでも、SFでも、ミステリーでも、映画でも、小説でも、そして人生でも。選択ってやつは、難しくて、切なくて、めんどくさくて、イライラして、だからこそワクワクもする▼2度目のKKJS(緊急事態宣言)以来、適度に暇だ。予定していた撮影も1本とんだ。とはいえ、春にも経験していることだし、こういう時こそ積み重ねが大切だよなぁとおっさんダイエットにもトライしているが、2週続けて書くことのほどもない地味な一進一退を繰り広げているだけ▼ところがですよ。ダイエットほどにはたいして意識せずに、むしろ偶然に近い感覚で積み重ねていたのが、先週のKKJS発出翌日の土曜日から毎夜1作ずつ見ている『ハリー・ポッター』だった。全7作なので今日金曜の夜で最終回を迎えることになる▼とはいえ、実はこれが人生2度目のポッターだったりする。初見時は、新作がリリースされるたびに見てはいたけれど、ポンコツな我が身の記憶力ゆえに、いまひとつシリーズが繋がっていなかった。記憶力って不思議だ。このコラムを書いていて実感するのは記憶力全般がポンコツではないということ。実際の出来事やインタビューで聞けた言葉の記憶力はわりとあるほうだと思う。なのに、しかし、映画や小説を観客や読者として楽しんだ記憶力はかなりポンコツで、たとえば『ハリーポッター』のシリーズ第3作を見ていても前2作の内容を忘れてしまっていたのだったのだった▼ところが2度目のハリーは、さすがに毎夜連続で鑑賞しているから見事に繋がっていて、正直、この原稿を書いているいまはまだ夕方の6時なのだが、とっとと家に帰って最終話を見たいぐらいにおもしろい▼とはいえ、最終回である今宵次第では、その評価は別のものになるかもしれない。なんせ、冒頭のパンチラインは、ダンブルドア校長が主人公のポッターに贈ったもので、選択の物語としてこの映画を見ているから▼選択といえば、青と赤のジレンマ(時限爆弾の2つのコード、青と赤のどちらを切るかという選択を求められる設定)での系譜でもある映画『マトリックス』も、もろに青と赤のカプセルのどちらを飲むかをはじめとする選択の物語でもあったけれど、はたして、ハリー・ポッターはどんな選択をするのだろう?▼って、はじめてか! 2度目のハリー・ポッターでしょうに! 本当にポンコツで我ながらびっくりしながら書いているが、シリーズ第7作目のDVDがリリースされた2011年にその選択を一度見てるはずなのに、ハリーがどんなチョイスをしたのかをまったく覚えていない。ひどい。ひどいけど、我ながら得だなぁとも思う。2回目なのにはじめてのようにワクワクできているのだから▼さて、2度目のKKJSで1回目のことを思い出し、このコラムの始まりも読み返してみたのだが(自分へのメモ)という役割も期待していたのだったのだった▼というわけで、インタビューの質問の練習をしまーす。たとえば、ハリー・ポッターが実際の人物で取材できるとしたら「あの時、別の選択をしていたらいまの自分はいない。そんな決定的な選択はどれですか?」なんてことを聞いてみたいなぁとふと思った。というか、実際のインタビューでも応用できるかもしれない。才能について、手を変え品を変えて、さまざまな人々に聞いてきたけれど、あ、それでいうと、最近思うところがあったので、自分用のメモのために一旦、横道に逸れまーす▼〝うまい漫才は褒め言葉か?〟と『マイク一本、一千万』で中川家さんに聞いていたりもしていて、この問いかけは才能論ど真ん中ではないけれど、自分のなかではその系譜の質問なので、ヒップホップのラッパーたちにも聞いてみたい。ラップがうまいって褒め言葉なんだろうか? 個人的には、ライターになってわりと初期に〝文章がうまいな〟と褒められたことがあったのだが、なぜかムカついて、(以後俺はうまいじゃなくてすごいと言われたい!)と、なんだかよくわからない野望を抱いたものだったのだった▼で、選択の質問だ。才能についてあれこれ聞いてきたけれど、選択についても今後はこだわってみたい。振り返ってみると、「才能」ほどには自覚的に質問していなかったとはいえ、いままでのインタビューでも「選択」についてだって問わざるを得なかっただろうし、実際、いろんな人がパンチラインをくれているはずだ▼てなわけで、選択について考えるきっかけをくれてありがとう、ハリー・ポッター。でもだからこそ、ポンコツの記憶にも残る選択を今宵ぜひともお願いします(唐澤和也)