からの週末20201224(木)
「だったら丸亀製麺でしょうが!」と彼女は叫んだ

▼少なくとも5年前よりはバタつかなくなったからか、ふとした時の街の人々の会話が耳に残ったりもしたこの師走。たとえば、地元の学芸大学のとある交差点で信号待ちしていた時には「あーあ。上海蟹の季節も終わりかぁ」との季語を含むパンチラインが耳元に届いた。たぶん、お金に余裕のある人の言葉だったんだろう。気になってあたりを見まわしても誰の言葉だかはわかんなかったけど、それはもう残念そうな声色だった。そういえば、かつて、バリバリの週刊プレイボーイっ子だった頃には、版元の集英社がある神保町で、よく上海蟹をご馳走になったものだった。しかし、週プレの集英社ではなく、なぜか小学館の編集者に。たしか、メスとオスで旬がずれていた記憶があるけれど、はじめて食べた上海蟹のメスはそれはもう絶品だった▼「2秒だ。2秒で戻れ」。よくあるチェーン店の焼き鳥系居酒屋には不似合いな、殺気じみた言葉が耳に残ったのもこの師走だった。この時は声の主が誰だかわかったので、ビールを傾けながらチラ見で観察した。ポケットに手を突っ込んでまるでスケートをしているように逆ハの字を描くような独特のフォームで歩くおばさんの言葉だった。後ろ姿しか確認できなかったので確信はないけれど、たぶん、ヤンキーではなさそうだった。むしろふつう、いやふつうではないし、その独特な歩き方がやっぱり怖い。なによりも「2秒だ。2秒で戻れ」っていうフレーズが怖い▼ところがこの言葉は、トイレに入っている子供たちへの言葉で、脅されたはずの子供たちは、キャッキャと楽しそうにスケートおばさんのほうに駆けていったから、あの言葉はちょっとした洒落だったのだろう▼ところで、コロナとも関係があったのだろうか。2020年は敬愛するTSUTAYAのリアル店舗が続々と姿を消した1年でもあった。祐天寺店、中目黒店と立て続けに2軒も。幸いにして、武蔵小山店は健在っぽいので、今後しばらくは徒歩40分ぐらいをかけて通うと思っているが、TSUTAYA関係にまつわるパンチラインも師走に刻まれた▼場所は祐天寺の喫茶店。ひとり、カウンターで事務所ではできない熟考を重ねていると(別名、サボりです)、常連客らしき中年女性が店員さんと雑談していた。その流れでTSUTAYAなくなっちゃったねーみたいな会話となる。もっとも、彼女たちは僕のようなTSUTAYAラバーズではないようで、TSUTAYAなきあとどんなお店がテナントに入るかが楽しみでしょうがなかったのよねーと話が転がっていく。たしかにそうだよな。で、なにが入ったんだっけと考えてみるにTSUTAYAなきいま、すっかりあの道を通っていないことに気づく僕。すると中年女性が会話の流れで教えてくれた(別名、盗み聞きです)。「すっごい楽しみにしてたのに、入ったのがまいばすけっとって。まいばすけっとは、あるからもう、駅前に。だったら、丸亀製麺でしょうが!」。2020年、こんなにも他人の意見に賛成だったことはないぜ!な瞬間だった。30代の頃に吉本興業関連の仕事で大阪へ行くことがレギュラーになって以来のうどん・そばならうどん派の僕は、たしかに、まいばすけっとも便利だけれども丸亀製麺でしょうが!だった。もっと言えば、名作ドラマ『北の国から』の名ゼリフ「子供が食べてるでしょうが!」BY田中邦衛以来の素晴らしき〝でしょうが〟だった▼さてさて、ラストも地元で聞いたパンチラインを。保育園的なものの最終日だったのだろうか。丸っとした印象を与える元気がだだ漏れしているような子供が、先生にこんな言葉で挨拶をしていた。「よいお年をーー!!!」。びっくりするぐらいの大声だった。大人の「よいお年を」はどちらかというとしっとり系だと思うが、その子のそれは、もうまるっきり「おはようございます!」テイストだった。子供は大人のやりとりをよく見聞きしているから、自分も言いたくなったのだろう。先生たちもその子の親も笑っていた。たまたまその場を通りかかっていただけの僕も笑った。なんだか来年はいいことがありそうな気がします。みなさん、「よいお年をーー!!!」(唐澤和也)