からの週末20201204(金)
まわりまわってまわりくどい極私的映画論③
▼なぜに師弟映画が好きなのか。理由はふたつあって、ひとつは、そもそも多感な学生時代の先生に恵まれていたから。てな話を先週末に書いたと思ったらもう次の週末。年末だわ、おっさんになったわで、月日がすぎるのがマジで早いですが、みなさま、いかがおすごしでしょうか?▼というわけでその3。インタビューを仕事にするようになったからなのか、そもそもがそういうタイプだったのかはわからないけれど、自分の〝弟子入り体質〟なところが師弟映画好きの理由その3のように思う。インタビューって、というか僕の場合のインタビューは、ある種の弟子入りに近い気がするのです。たとえば、実際の仕事で振り返っても、中高一貫校の取材で出会った中学生に「いろいろと教えてください」と、親子ほどに歳の離れた14歳にもふつうに頭を下げてお願いしていたりするし。ん? わかりにくいですか? そもそも弟子入り体質とはなんぞやというところからご説明すると、その特徴としてなにかにつけて「すげぇ!」とリアクションする人はこのタイプである可能性が高い。若い頃の僕自身が「すげぇ!」とよく口にしてきたし、年齢を重ねて体裁を取り繕わねば場面では声にこそ出さないけれど心の中では(すげぇ!)と叫びたくなる場面がいまでも多い。感動の沸点が低いというのか(なんにでも感動しやすいという意味では低い)、感動の沸点が高いというのか(そんなことでそこまでテンション高く感動できるなぁという意味では高い)。ワンピースのルフィ的というとよく言いすぎかもだけど、そもそもルフィの場合は弟子入りではなく「仲間になれ!」だけれど、でもあの感じは弟子入り体質の可能性が高く、おそらくルフィは師弟映画も好きだと思う▼やっぱり、わかりにくいですか? ルフィのたとえのへんから、余計にわかりにかったですよね? では、別の漫画でご説明を。『ブルージャイアント』の主人公・宮本大は、かなりの弟子入り体質だ▼あの傑作漫画をまさかの未読という方のために、ざっくりとダイジェストで紹介すると、すなわちネタバレを含むので興味ある方はご注意あれですが、物語のはじまりの頃、主人公は高校生。あるきっかでジャズ、しかもサックスに興味を持つ。地元は仙台。高校生なんで恋もするけど、とにかくサックスを吹きまくる。まぁ、吹く。で、ある時、そんな主人公のひたむきなサックスを好きになった人とのつながりから、バークリー音大出身のちょっと変わったサックスの師匠と出会う。その出会いをきっかけとして、さらに吹きまくる。地元の広瀬川や、師匠の稽古場などで。その後、東京に出たりするなどいろいろあって(個人的には漫画史上もっとも切ないエピソードランキングかなり上位なエピソードもあり)……ドイツに渡り、いまはジャズの本場アメリカで、でも、やっぱりサックスを吹きまくっている▼ということは『ブルージャイアント』も師匠との出会いや関係性が大きいのだけれど、もちろん、そのことだけで〝師弟漫画〟としてるわけではない。その論だと、師弟映画の代表格『ベストキッド』に違和感があったんじゃなかったっけという話だから▼主人公がドイツに渡った最初の頃の話が、彼の弟子入り体質を一番わかりやすく具現化していると思う▼主人公はクリスというドイツ人の若者と出会う。お金がないならうちに来い、うちを自分ちと思えとまで言ってくれる〝いいヤツ〟。主人公の目標が世界一のサックスプレイヤーになることだと知ると、演奏できるライブハウスを探し、さらに友達に声をかけまくり、ライブ当日に客を集めたりもしてくれる。主人公は感謝しつつも、なんでこんなに親切にしてもらえるのかが不思議で、都合2度、直球で「どうしてオレに優しいの?」とクリスに質問している。ちょっと変わった経験談ともに返される2度目の答えが、ユニークで深くてぐっとくる▼クリスが大学1年生の頃、世界を旅していて、宿泊先のユースホテルで奇妙なジョージア人と知り合いになった。喫煙所で会うたびにタバコを1本セガまれて、ケチだなと思いつつ、ま、いっかとクリスはあげていた。そんなある日、喫煙所でいきなり、激しい胃痛に襲われうずくまってしまうクリス。そこへジョージア人が現れる。すると、大声で何度も「サムバディ、ヘルプ!」と叫び続けてくれた▼彼の叫びのおかげで、入院はしたもの回復したクリスは、いつもの喫煙所でジョージア人と再会する。クリスはせめてものお礼にとタバコを1箱渡そうとすると、そのジョージア人は1本だけ抜いて「センキュー」と笑った▼その時、クリスはこんなことを思ったと主人公に伝える。「世界はこうやって回っているんだ」「世界はこうして回さなきゃな」と▼で、ここからは完全なる僕の妄想なのだけれど、この話を聞いた大は、クリスを尊敬し、会ったこともないジョージア人を尊敬し、心の中では〝クリス師匠、すげぇいい話っす!〟と叫びたい気持ちだったと思う▼こういう『ブルージャイアント』の主人公のようなタイプを弟子入り体質と僕は分類しているのだけれど、うん、かなりわかりにくいですよね? 途中から妄想とか入っちゃってるし〝クリス師匠、すげぇいい話っす!〟って叫びたいのはほかならぬ読者である僕ですもんね。だからアレでした。ものすごく簡単にまとめると『ブルージャイアント』の主人公とかルフィは関係なく、私・唐澤和也が弟子入り体質なもので、結果、師弟映画が好きだということ。だいたいが、このまわりまわってまわりくどい極私的映画論の①で〝僕の映画の師匠であるイラストレーターのTくん〟とか、もろに弟子入り体質全開だったし。あと、映画論とかタイトルにうたっておいてほとんど漫画のはなしかよ!……と自分が一番ツッコんでおりますが、とりあえず、本日発売の『鬼滅の刃』最新かつ最終巻をこの週末の楽しにしつつ、また来週!(唐澤和也)